情緒不安定
創太視点です。
いつもパソコンをカタカタとやっていたななさんは、今日は仕事がないのか、全くパソコンを触らずに僕の話を聞いてくれていた。
それもずっと僕の方を見ながら聞いてくれていたので、それがとても嬉しくて、今日の学校での出来事を無駄に沢山話してしまった。
確かに駿介と友人になれた事は良かったけど、そんなに楽しいことがあった訳でもないのに……
「すみません。なんか沢山話したら喉が乾きました。お茶もらいますね」
「ならついでに、私にも何か飲み物をいれてくれる?」
「何でもいいんですか?」
「えぇ」
自分にお茶、ななさんにはコーヒーをいれて部屋へ持っていく。
その間にななさんはパソコンを取り出していた。
やっぱり仕事があるんだろう。
つまりさっきまでは、仕事より僕の話を優先してくれていたという事だ。
それが分かって、より嬉しさが込み上げてくる。
今日は情緒の忙しい日だな。
「ななさん、どうぞ」
「ありがとう」
コーヒーをななさんに渡す。
いつもと同じの、落ち着いた感じで受け取ってくれる。
昨日のお茶を渡した時の、無防備なかわいい感じはもう消え去ってしまったみたいだ……
まぁ、元気になってくれたみたいで良かったけど……
「あ……ねぇ創太。1つ聞いてもいいかしら?」
「なんですか?」
僕が無防備ななさんとの別れを惜しんでいると、何かを思い出したようにななさんに声をかけられた。
ななさんから僕に質問なんて珍しい……
「ほら、前に私が携帯渡してるのに、創太が受け取らなかった事あったわよね?」
「はい」
「あの時、何で受け取らなかったの? 私には理解できない行動だから気になってたのよね」
そういえば、仕事ばかりのななさんからパソコンを遠ざけたくて、そんな事もしてたな……
あれは結局失敗だったけど。
「あー、あれは、その……」
「なんか言いにくい事?」
失敗してて情けないし、言いにくいかといえば言いにくいんだけど……
でもななさんに変に思われるよりは、言ってしまった方がいいな。
「いえ、あれはななさんをパソコンから遠ざけたかったんです」
「え?」
「ななさん、ずっとパソコンやってるじゃないですか。ご飯中も授業中も、見てなくても左手はずっとパソコンやってたので、流石にちょっと心配で……」
あの時、もしパソコンを上手く遠ざけて、ななさんを休ませれていたとしたら、ななさんは倒れなかったのだろうか?
いや、それはそれで仕事を遅らせる事になるんだから、余計に倒れてたのか?
もうよく分からないな……
「ななさんがパソコンから離れるのは、トイレに行く時か僕に携帯を渡しにくる時だけだったので、僕が携帯を受け取らなければ、ななさんはその間だけでもパソコンから離れると思ったんです……」
僕があの時の行動の意味を説明すると、ななさんは少し驚いた顔をした。
流石にそんな理由だとは思ってなかったんだろう。
「あと、トイレに閉じ込めてみようかとも思いましたよ。でもそれは多分、ななさんはドアを壊して出てくると思ったのでやめました」
ついでに、実行はしていなかったもう1つも言ってしまった。
これで僕がどれだけななさんを心配してたのかが、少しでも伝わればいい……と思ったていたら、
「ふふっ、ふふふふっ、そう……そんな理由だったのね、ふふっ」
ななさんは滅茶苦茶笑い始めた。
面白おかしいかもしれないけど、僕は結構真面目に考えてたっていうのに……
「私、結構心配したのよ? 急に変なことするから。だから創太の事を注意深く見てたけど、特に変わった様子もないから。あれは何だったんだろうって考えて……っていうのに、ふふっ、まさか私が心配されてたなんてね」
僕が心配してたっていうのは伝わったみたいだ。
良かった。
それに、あの時ななさんも、僕の事を考えてくれていたっていうのが分かって、なんか嬉しい……
「ふふふっ、ありがとう、創太」
「い、いえ……」
真っ直ぐに僕を見つめて、笑いながらお礼を言ってくれたななさん。
その笑顔はいつものふざけた感じとも違って、本当に可愛かった。
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




