当たり前
創太視点です。
冷静になって考えれば、そもそも僕はこの部屋に入れはするけど出る事は出来ない。
あの特殊な鍵の番号までは教えてもらってないから。
だから好きに使っていいっていうのが、もう自分は使わないからなんて意味になる訳がない。
物が片付けてあったのも、学校で授業を受けてきた僕に授業は必要ないからだ。
使わないものは片付ける、当たり前の事だ。
いつものパソコンがなかったのも、ななさんが出掛ける為に持ち歩いていただけの事だった。
さらに言えば、僕がアイツ等に話し掛ける隙も与えないほどの、異常な早さで学校を出て、走って帰って来てさえいなければ、僕が帰って来る位には、ななさんは帰ってきていたはずだ。
だからななさんは"思ったより早かった"と言ったのだろう。
それに何より、言葉をちゃんと組にしたいって言ったのはななさんじゃないか。
ななさんがその約束を破るわけがない。
冷静に考えればすぐに分かることをあんなに動揺して……
本当に情けないな……
「で、創太? 何やってたの? あんなところに座り込んで」
「いえ、その……ななさんがいなかったので、探してました」
「流石に床にはいないわよ」
「ななさんならあり得るかと思って」
「まぁ、確かに……あり得なくはないけど」
あり得なくないんだ……
この部屋は本当に変な部屋だし、マンションといえど床下に隠れれるようなスペースでもあるのかもしれないな。
そんな事も考えながら、ななさんと一緒に奥の部屋まで来た。
「どうだった? 学校は」
「そうですね……授業は全部、圧倒的にななさんの方が分かりやすいですね。なんか先生が話すのは無駄が多くて、進まないなって感じがして頭に入ってきづらかったので」
「それは当たり前よ。私は創太一人に合わせるだけだけど、学校の先生っていうのは、クラスの皆に合うように授業をしてるんだから」
そう言われると確かにそうだ。
ななさんは僕にだけ合わせる授業をしてくれてたんだから、分かりやすくて当然なのか。
いやでも、ななさんならクラスの皆相手に授業をしても、先生より分かりやすいと思うけどな……
それにしても予想外の返しだった。
当たり前っていうから、てっきり自分は教えるのが上手いからって言うのかと思ったら全然違って、全く奢ることのない返しをされた。
僕がななさんと比べてななさんの方が良かったと、あえて言ったのに……
やっぱりそういうことを自慢する人じゃないんだな。
「あとは、変わらずうるさいのはいましたね。でも問題は先生の方にあるような気がします。アイツ等を止めようとはしませんから。まぁ、面倒事に関わりたくないっていうのは分かりますけどね」
あんなにあからさまに絡んでいるのに、止めようとしない先生。
アイツ等だって、先生が怒らなければ何がいけない事なのか分からないのかもしれない……
まぁ、流石にそれはないだろうけど、やっぱり先生が何もしないのなら、クラスの誰も何も出来ないだろう。
「先生だって皆と変わらない人なのよ。どんな人だって、全てが完璧なんてあり得ないわ」
「ななさんだって一見完璧に見えますけど、生活能力皆無ですもんね」
「ふふっ、言うわね。まぁ、その先生がこれからもずっと変わらないようなら、もうその人は教師に向いてないわ。やっぱり教師っていうのは、人に物事を教える仕事だからね。相手が幼子だろうと大人だろうと、手本とならなければいけないのよ。難しい事だけどね」
「そうですね。大変ですね、教師って」
「えぇ。先生だってまだまだ成長途中なのよ。大目に見てあげて」
大目に見てあげてって……
ななさんは一体どこ目線で話してるんだろう?
相変わらずよく分からない変な人だ。
「でも、大変だからこそ、一番に尊敬される仕事なのよ。誰を尊敬して目指していくのかは生徒自身が決める事なんだから、沢山の生徒に尊敬されてる先生は本当に立派よね」
「ななさんにも尊敬する先生っているんですか?」
「先生ではいないわね。でも尊敬してる人はいるわ」
ななさんが尊敬する人……
それは滅茶苦茶きになるな……
「どんな人なんですか?」
「私の世界を広げてくれた人ね」
「世界を広げた?」
「私ね、昔から大体の事は何でも出来てたのよね」
「そんな感じですね」
ななさんの歳とかは分からないけど、多分僕とそんなに変わらない。
この若さでこれだけの事が出来る人なわけだし、真さんが海外の名門大学で凄い論文を沢山発表してるって言ってた事から考えても、幼い頃から相当優秀な子供だったんだろう。
「その頃の私は、自分は何でもできるけど周りは大したことないなって奢ってたの。そんな考えを変えてくれた人よ。ま、幼馴染みなんだけどね」
「幼馴染み……真さんみたいな?」
「そう、真も私と一緒よ。自分の才能に奢ってた口ね。だから、その幼馴染みに世界を広げてもらった仲間なの」
僕はその幼馴染みさんがどんな人なのかは知らない。
でもななさんや真さんが異常なほどに凄い人達なんだって事は分かる。
そしてその凄い人達の世界を広げたという幼馴染みさんも、相当に凄い人なんだろうな……
何しろこのななさんが尊敬までしてる人なんだから。
「凄い人なんですね」
「そうね。人にはそれぞれ向き不向きがあるって事を教えてくれたのよ。私に出来て真には出来ないこともあるし、真に出来る事でも私には出来なかったりする。もちろん私にも真にも出来ない事だってある」
「規則正しい生活とかですか?」
「……まぁ、確かにね」
否定はしないのか……
っていうか、その幼馴染みさんが生活能力ないから、他の人もないんじゃ……
「その幼馴染みさんも、生活能力ないんじゃないですか?」
「そうでもないわよ。ただ無理し過ぎちゃう時は多いわね。だから周りの皆がフォローするの。もちろん私や真もね」
「頼りにされてるんですね。なんかそういう関係って格好いいですね」
「ふふっ、ありがとう。人は一人だとできることは少ないけど、協力し合えばどんな事でもできるのよ。人任せにするのはダメだけど、互いに信頼して頼りにするのはお互いの力になるわ」
「それは今日よく分かりました」
今日駿介が気づかせてくれた事と同じだ。
人任せと相手を頼るっていう違うもので、友人の為に出来ることをするのは、当たり前だって事を駿介に教えてもらった。
「何かあったの?」
「僕、友人ができました」
「あら、良かったわね。何て名前の子?」
「東城駿介っていうんですけど、バスケが得意な優しい人です」
「ん? 東城……バスケ? あぁ……」
ななさんは少しだけ悩んでから、納得したような感じだ。
もしかして、駿介と知り合いだったのか?
「ななさん。駿介を知ってるんですか?」
「えぇ。直接の面識はないけど、私の幼馴染みが多分知り合いね」
「さっきの尊敬してるって言ってた、あの幼馴染みさんですか?」
「じゃない幼馴染みね」
「……そうですか」
また別の幼馴染みか。
多分だけどその人も、なんか凄い人なんだろうな。
ななさんの幼馴染みって、なんかそんな人ばっかりだし……
それにしても、まさかななさんが駿介を知っているとは……
世間って案外狭いな。
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




