帰宅
創太視点です。
僕の家に帰ってきた。
どうしようか……
なかなか玄関の扉を開ける勇気がでない……
先に今日帰るって連絡しておけばよかったな……
でも、いつまでもうじうじしていてもしょうがない。
こんな所で挫けてるようじゃ、夢なんて叶う訳がない。
僕は勇気を出して、玄関を開けた。
「た、ただいま……」
自分で思ったより弱々しい声が出てしまった。
「創ちゃん? 創ちゃん、創ちゃんっ!」
玄関の開いた音が気になったからか、台所から婆ちゃんが出てきた。
そのまま僕に気づくと駆け寄って来て、抱き締めてくれた。
「ご、ごめんね、婆ちゃん。心配かけたね」
「いいの、いいのよ。お帰りなさい、創ちゃん」
「うん、ただいま」
僕を抱き締めて、涙を流しながら喜んでくれている婆ちゃん。
こんなに大切に思われてたのに、自分は世界に必要ないとか言っていた自分が情けない……
本当に婆ちゃんには一番心配をかけてしまった……
これからはもう、変な心配をかけないように気を付けよう。
婆ちゃんは朝ご飯を作ってる所だったみたいだ。
大号泣の婆ちゃんに対して、菜箸持ったまんま来ちゃってるとか、ちゃんと火止めてきたよな? とか、そういう事を考えれてる辺り、僕の動揺は少く、冷静だ。
「ば、婆ちゃん。朝ご飯の途中だったんじゃない? 大丈夫?」
「え……あぁ、そうね。あ、お鍋、お鍋」
婆ちゃんは涙を拭きながら台所へ向かって行った。
僕も続こうとしたら、
「創太?」
「創太……」
という2人の声が聞こえた。
「ただいま。父さん、母さん……」
2人共、僕を見て驚いている。
それは当たり前だ。
最近様子が急変してたから、何かあったのかと少し心配だったけど、とりあえずは大丈夫そうだ。
「あ、あぁ……お帰り……その、なんだ……もう大丈夫なのか?」
「うん。大丈夫……」
最初は2人共顔を背けたけど、父さんはすぐに向き直して聞いてきた。
いつもの怒鳴り声でもない、電話の時みたいな大人しい感じだ。
正直、誰この人? って感じだ。
「その格好……学校に行くのか?」
「うん。あんまり休みすぎもよくないし、ちゃんと行こうと思って……」
「ななさんに何か言われたのか?」
「え、いや……ななさんは僕に色んな事を言ってくれたし、沢山の事を教えてくれたけど、ただの一度も学校へ行けとは言わなかったよ……」
「そうなのか……」
ななさんは学校へ行きたくない僕に、行かなくていいとか言ってくるし、行く理由なんてのを聞いてくる変な人だから……っていうのは言わないでおこう。
「それなら何で学校に行こうと思ったんだ?」
「僕の夢の為、かな?」
「ん? 創太の夢?」
「僕は夢の為に、自分の意思で学校に行こうと思ったんだ」
父さんは驚いた顔をしている。
母さんは変わらず顔を背けたままだ。
でも僕は2人にちゃんと伝えないといけない。
その為に帰ってきたんだ。
「父さん、母さん、僕にはずっと、やりたいことも夢も何もなかったんだ。何もないままずっと、母さんに甘えて生きてきたんだって、ななさんにマザコンって言われて思い知ったよ」
「私に、甘えて……?」
「マザコン……?」
母さんは、少し僕の方へ向き直り、不思議そうな顔をした。
僕にも甘えてる自覚なんてなかったし、母さんも甘えられてるとは思ってなかっただろう。
でも自分から頼ってなくても、自分の意思も持たずに母さんのいう通りにだけ進んできた僕は、ずっと母さんに頼って生きてきたのと一緒だ。
父さんはマザコンに悩んでる。
そこは追及してほしくないので、スルーしておく。
「母さん。僕は今までずっと母さんのいう通りにしてきた。自分で考えることを放棄していた。でもそれは、母さんに甘えてたのと一緒だったんだ」
「創太、それは違うわ。私があなたの夢を潰していたのよ……」
また顔を背けて俯いた母さんは、今にも泣きそうだ。
こんな弱々しい母さんは初めて見る。
初対面の知らない人にすら思えた。
「ななさんに言われたんだ。僕に選択の余地を与えなかった母さんもどうかと思うけど、それを良しとして、自分の意思を持たなかった僕の方が問題だって。だからさ、母さんは僕の夢を潰してはいないよ。最初から、自分の意思も夢も何もなかった僕が問題だったんだから。でも、だからこそこれからは、自分の意思でやりたいことの為に進んで行きたいんだ」
「うっ、うっ……創太、ごめんね……」
とうとう泣き出してしまった。
泣く母さんを父さんが宥めている。
世間体モンスターなんて呼んでいたけど、そうなる原因を作ったのは多分僕だろう。
僕が全部言いなりに行動せずに、少しでも自分の意思表示をしていたら変わっていたかもしれない。
きっとちゃんと話し合えば、もっと早くに解決していた事だったんだ。
「母さん。僕は◎◎大学を目指すよ」
「え……でも創太、いいのよ……もう……」
「大丈夫。これは僕の意思だから。僕は自分の意思で◎◎大学へ進学したいと思ってる。◎◎大学での知識や経験が必ず役に立つと思うから」
「それも夢の為か?」
母さんを宥めながら、父さんが聞いてくる。
今、夢ができたからって、いきなり◎◎大学を目指すなんて、絶対に不可能な事だ。
◎◎大学は本当に難関だから。
でも僕は不可能だとは思ってない。
それは今までずっと◎◎大学へ行くために勉強してきたっていう、僕の経験があるからこそだ。
「ゼロからのスタートだったら絶対に無理だ。でも僕は今までも◎◎大学へ入学するために勉強してきてたから、ゼロからのスタートじゃないんだよ。これは母さんのお陰だから、その……今まで僕の進む道を作ってくれてありがとう」
今までの僕は、作ってもらった歩きやすい道を言われた方向へ向かって、歩いていただけだ。
自分で地図を見て、考えることもしないで。
でも、それじゃ僕の人生じゃない。
「これからはちゃんと自分で道を作っていくから。母さん達はもう、僕の道まで作らなくていいよ。ただ僕が道をちゃんと進めてるか、これからも見守っていてほしい……です」
「分かった……頑張れよ、創太」
「私も……応援してるからね……」
「うん。ありがとう」
僕の気持ち、思っている事をちゃんと話せた。
父さんも母さんも応援してくれた。
これだけ大きな事を言ったんだ。
気合いを入れて頑張らないと!
「創ちゃん、朝ご飯食べていく?」
僕の話が落ち着いたからか、台所から婆ちゃんが顔を出して聞いてくれた。
婆ちゃんも若干涙目だ。
「ううん。食べてきたから大丈夫。あ、でも夜ご飯はこっちで食べるから」
「そう。じゃあ今日は創ちゃんの好きなハンバーグにするわね」
「ありがとう婆ちゃん。楽しみにしてるよ」
婆ちゃんのハンバーグは絶品だからな、凄く楽しみだ。
ここ最近、四角い物体ご飯しか食べてなかったし、久しぶりに婆ちゃんの手料理が食べれるって事が嬉しかった。
ななさんは、あのご飯以外の物を食べているんだろうか?
そもそもご飯を食べてるかどうかも怪しい人なのに……
「あ、遅刻しちゃうし、そろそろ行くね」
ふと時計を見ると、もうそろそろ家を出てないと学校に遅刻してしまうくらいの時間だった。
結構話し込んでしまっていたみたいだ。
でもちゃんと言いたい事も言えたし、後は学校の方だけだ。
「えぇ、気をつけてね」
「帰りはちょっと遅くなると思うから」
「ななさんの所に寄ってくるのか?」
「そのつもり」
「なら、俺の分もお礼を言っておいてくれ。謝罪は聞いてくれなくても、お礼位は聞いてくれるだろ?」
「分かった。伝えておくよ、父さん。じゃあ、行ってきます」
「「「行ってらっしゃい」」」
父さん、母さん、婆ちゃん、3人の送り出してくれる声を聞きながら、少し急ぎ足で学校へ向かった。
こっちの言葉も、ちゃんと組に戻さないといけないな。
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




