言葉の組
創太視点です。
♪♪♪♪♪
昨日充電させてもらった、僕の携帯のアラームの音で目が覚めた。
予定していた時間通り、朝の6時だ。
「おはよう、創太。今日は早いのね」
布団を片付けて部屋を出ると、ななさんがいた。
今日はいつもと違い、パソコンとカタカタはやっておらず、分厚い本をパラパラとめくっていた。
「おはようございます、ななさん。何時から起きてるんですか? ちゃんと寝ました?」
「寝たわよ。少し前に起きた所」
「寝貯めたからもう大丈夫。とか、思ってませんよね?」
「…………」
無言で目を逸らされた。
やっぱり寝貯めたとか思ってるみたいだ。
「ダメですからね。今日もゆっくり休んで下さいよ」
「はいはい」
そんな雑な会話をしつつ、朝の支度を済ませて、学校の制服を着る。
荷物も準備し終えてから、まだ少し早いけど朝食を作った。
もうお馴染みの四角い物体ご飯だ。
「ななさん、少し早いですけど朝ご飯です」
「手慣れたものね」
「そうですね。今日はお昼は作れませんから、ちゃんと自分で用意して、食べて下さいね」
多分ななさんは、誰かがご飯とか用意しないと食べる事を忘れるんだろう。
寝もしずに働いてたりするし、自己管理意識が低すぎる。
だから真さんの仕事に、ななさんの生存確認なんてものがあるんだろうな。
お昼をちゃんと食べるか心配だ……
「そうだ、はい創太」
「なんですか?」
渡されたのは鍵だった。
「このマンションの入り口、開けれらないでしょ? 誰かが出たタイミングで侵入してたら、怪しまれるわ」
「ありがとうございます」
「この部屋は外からは鍵がかかってないから、好きに入れるわ。出るのは難しいけどね」
そんな変な家、普通ないけどな……今更か。
ってか、外から好きに入れるって無用心過ぎないか?
「あの、外に鍵はかかってないんですか? 大丈夫ですか?」
「基本的にいるのは私だし、よっぽど大丈夫よ。私強いし」
「昨日倒れたじゃないですかっ!」
「あれは、たまたま……」
「たまたまでも何でも、もっと気をつけて下さい」
「分かったわよ」
本当に分かってるのか?
ななさんは自分の強さとかを過信してないか?
もっと自分の体を大切にしてほしい。
「まぁでもこの部屋は基本私がいるけど、皆が使う部屋だからね、鍵は開いてる方が都合がいいのよ」
「皆……ですか?」
「えぇ。もちろん創太も好きに使っていいわ」
「はい……」
ここには大抵の物は何でも揃ってる。
何も持たずに適当に来たとしても、普通に何日間か過ごせるだろう。
ななさんのいう皆ってのが誰なのかなんて分からないけど、僕もその1人に入れてもらえてるようで少し嬉しかった。
でも嬉しい反面、少しもやっとした。
独占欲かな……?
そう思う辺り、僕も自分で自分の気持ちをちゃんと自覚したんだろうな。
これは真さんのお陰だ。
そんな話をしていたら、朝ご飯も食べ終わっていた。
朝ご飯の食器等を片付けて、自分の荷物を持って、
「学校の前に家にも寄りたいので、もう行きますね」
と、ななさんに声をかけた。
「分かったわ」
ななさんは玄関の鍵を開けてくれた。
そのまま戸も開けてくれて、後はもう僕が歩いて行くだけだ。
いざ出ると思うと、足が竦んで動かし辛い……
それでも行くって決めたんだから……
今度はこの部屋に、無理矢理連れてこられるんじゃなくて、この渡してもらった鍵を使って自分から入って来るんだ!
僕は鍵を握りしめて、勇気を持って、外へ出た。
閉じ込められていた部屋からやっと出れた……みたいな感覚は欠片もなかった。
「創太、"行ってらっしゃい"には組になってる言葉があるのよ。私、組が壊されるのは嫌いだから」
出たところでななさんにそう言われた。
組になってる言葉か……
「知ってますよ。"行ってきます"にもありますよね。ちゃんと組に戻してみせますから」
今の僕はもう、このマンションに来た時の僕とは違う。
自分が世界に必要かどうかなんてどうでもいいし、変な所に旅立とうとも思ってない。
僕は僕の為にこの世界を必要としてるし、自分の目指すべき夢もある。
「そう。それなら気をつけて、行ってらっしゃい」
「はいっ! 行ってきます」
ななさんは笑顔で手を振りながら送り出してくれて、僕はこのマンションを後にした。
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




