ご自愛
創太視点です。
真さんは、ななさんの様子を確認し終えると、ななさんがいつもカタカタやっていたパソコンの方へと行った。
「おぉ、終わってるな。なるほどな、達成感から気が緩んじまったか」
そういえばななさんがパソコンから離れなくなったのは、真さんが"仕事"を渡してからだった。
今の発言から考えても、ななさんは相当大変な仕事をやりきってから倒れたんだろう。
「なぁ、創太」
「はい?」
「これからもみーの事、よろしくな」
「えっ……」
急に呼ばれて、びっくりしてたら、更にびっくりさせられた。
これからもななさんの事をよろしく?
あぁそうか、真さんは勘違いしてるんだ。
あれだけ凄いななさんが、自分の助手だと僕を紹介したんだ。
凄い人の助手は凄い人に決まってる。
だから僕の事を凄い人だと思ってるんだろう。
ななさんに認めてもらえる程の人だと……
これはちゃんと訂正しなければ……
「あの、真さん」
「ん?」
「僕はただの、自殺志願者ですよ……」
「へぇー、そうなのか」
真さんは驚きもせず、とても軽い感じの返しをしてきた。
勘違いを正す、結構驚きのカミングアウトだったと思うんだけど……
「あの、えっと……だから、全然助手とかじゃなくて……ななさんに自殺を止められて、ここに閉じ込められてるだけで……」
「じゃあ、そいつの事嫌いなのか?」
ななさんを指差しながら聞いてくる。
「いえ、嫌いでは……」
「だよなっ! 好きだよな!」
何なんだろう?
テンションがよく分からない……
真さんは凄く楽しそうに、喋ってくる。
僕がななさんの事を好きだと嬉しいみたいな感じ……
「いや、その……分かんないです」
「ふーん、そっか。で、創太は今も死にたいの?」
「それも、分かんないです……」
「なら、生きてな。創太がみーの事見ててくれれば、俺もみーの生存確認をしなくて済むし。仕事が1個減って楽」
「そうなんですか……」
仮にも自殺しようとしてた人に対して、軽すぎないか?
ななさんもそうだけど、真さんも普通とは感覚が違い過ぎる。
この人達にとっては、これが普通なんだろう。
ってか生存確認って、仕事なんだな……
「俺さ、今度海外の仕事に行かないといけなくてな、当面ここに来れねぇんだよ。だからみーの事は任せたぜ、創太」
「は、はぁ」
「なんだその返事は! しっかり腹から声を出せっ!」
「はいっ!」
「よしっ!」
真さんに合わせて大きな声を出してしまったら、
「う……うるさい……」
と、ななさんが少し喋った。
ななさん……起きたのか?
確認してみたけど、起きたわけではなかった。
「じゃ、俺は行くわ。みーはさ、ただの睡眠不足だからそんなに心配しなくていいぜ」
「倒れたのにですか?」
「まぁ、あれだ。俺等にとってはよくあることだ」
「そんなのよくない方がいいと思いますけど……」
「だよな。本当にみーには反省が無さすぎるんだよ」
「確かにななさんって、自分が悪いと思わなきゃ反省しなさそうですね」
「よく分かってるじゃん」
ななさんは一度でも失敗したりして、反省したら絶対にもう失敗なんてしないようにするタイプの人だ。
なのに前も倒れてて、また倒れたって事は倒れる事をなんら悪いと思ってないんだろう。
その考えは間違ってるって、正さないといけないな。
ちゃんと自分の体を大切にしてほしい。
「全然寝てなかったみたいだし、ちょっと寝溜めるまでは起きねぇと思うぞ」
「寝溜めるって……どういう体の仕組みなんですか……全く寝てなかったのを一気に寝たからって、疲れがとれる訳でもないし、その後に寝なくて済む訳でもないですよ」
「それ、みーによく言っといてやってくれ。俺等が言っても聞かねぇから」
「それは真さんも寝溜めてる派だからなんじゃないですか?」
「おう、よくお分かりで」
やっぱり……
真さんも多分、仕事をし過ぎてて、ちゃんと休めていないんだろう。
だから寝溜めるとかいう発想になるんだ。
どんな仕事なのかは知らないけど……
「ちゃんと寝て下さい」
「俺は、みーよりちゃんと寝てる!」
「下と比較しないで下さい。大体、同じことしてる人に寝ろとか休めとか言われて、素直に聞くわけないじゃないですか」
「そりゃそうだな」
「真さんもちゃんと寝て、ちゃんと休んで下さいよ!」
「肝に命じとく」
本当に分かってるんだろうか。
真さんにも自分の体を大事にしてほしい……
それを自殺なんてしようとしてた僕が言ってるんだから、おかしな話だよな……
「あ、そうだ創太。みーが起きたら伝えてほしいんだけど」
「はい、何ですか?」
「"これはボスにもしっかり報告しておくからな"って言っといてくれ」
「分かりました」
「じゃあなー」
真さんは帰って行った。
本当にただ、ななさんの生存確認をしに来ただけだったみたいだ。
真さんが出ていった玄関のドア。
それを見送った僕……
そうだ、僕はとっくの前からちゃんと気がついてる。
僕はここに閉じこめられてるんじゃない。
閉じこめられていたいんだ。
だって、本当に出たいなら、今真さんと一緒に外に出れば良かっただけなんだから。
でもそれじゃダメなんだ。
真さんにななさんの事を任せてもらったんだし、いつまでも言い訳して逃げてちゃダメだ。
ちゃんと自分の意思で出ると決めて、出て行かないと何も変わらない。
今僕は、ここに閉じこもっている場合じゃないんだ!
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




