洞察力
創太視点です。
倒れたななさんをとりあえず布団へ運んで来た。
運んできて気がついたけど、ななさんは軽すぎた。
こんな非力な僕が抱えれる位なんだし……
ちゃんとご飯食べてるのかって心配になるくらいだ。
でも、ご飯は僕が用意して一緒に食べてたんだし、ちゃんと食べてる事は間違いない筈だ。
やっぱり過労かな?
最近凄く忙しそうだったし……
だから僕もパソコンから引きはなそうとかしてたんだ。
もっと強硬的にでもパソコンに触らすのを止めさせてればよかった。
本当にどうしたらいいんだろう……?
救急車はいらないって言ってたけど、やっぱり呼んだ方がいいのかな?
でも僕はこの家の住所も知らないし、玄関も開けれないんだった。
救急車なんて呼びようがないか……
こんなときに何も出来ないなんて、情けなさ過ぎるな……
ななさんは寝ている。
大丈夫、ちゃんと息はしてるし、死んでない。
そういえば、ななさんの寝顔を見たのは初めてだ。
いつも僕より遅く寝て、早く起きてたからな。
……ん? 本当にそうなのか?
つまり、僕はななさんが本当に寝てたかどうかなんて知らない。
今まで寝てなかったんじゃないか?
何でもっと早くに気がつかなかったんだろう?
パソコンを止めさせるより先に、寝かせなきゃいけなかったんだ。
僕がそんな事を考えていると、
ガチャ
という、玄関のドアが勝手に開く音が聞こえた。
「おーっす、みー。あれ? みー?」
何かと思って玄関へいくと、前にも一度来た男の人がいた。
ななさんが運送業者って言ってた、ななさんと仲のいい男の人。
「あの……」
「あぁ、みーの助手君。みーは?」
「その、倒れてしまわれて……」
「あー、遅かったか……まぁ、そろそろだとは思ってたけどな」
そう言って入ってきた。
すぐに奥のななさんの寝ている部屋まで来て、ななさんの様子を見ている。
「こいつな、頭使いすぎるとたまにこうなるんだよ。それに寝てねぇみたいだったしさ、絶対また倒れると思ったんだよな。一応いつもは俺が生存確認してるんだけど……よし、大丈夫そうだな」
いくつか気になる事を言った。
頭の使いすぎでたまにこうなる?
また倒れるって事は、前も倒れてるって事だ。
いつも生存確認って……
それに今日は荷物も持ってないし、もはやこの人は運送業者ですらない。
「あの、あなたは?」
「俺は真。みーの幼馴染みだ」
「そう、なんですか……あ、僕は青島創太です」
幼馴染みの人だったのか……
きっとななさんとは凄く親しいんだろうな。
まだ出会って数日の僕となんかじゃ、比べ物にならない位に……
「なんだよ、そうガッカリすんなって」
「えっ? 別に僕は……」
「まぁ、そう否定すんな。安心していいぞ、俺とみーはただの幼馴染みだからな」
何なんだろう、真さんのこの見透かしているような感じは……
前回も僕と会っているとはいえ、喋ってはいない。
なのに真さんは、まるで僕の事を全部知っているみたいだ。
「あの、その……」
「別に恋仲とかでもねぇし、創太のライバルでもなんでもねぇから」
この間あんなに仲良く喋ってたのに……
さっきだってななさんの事を理解してる感じだった。
それに、それは真さんが言ってるだけで、ななさんの気持ちは分からないじゃないか。
何より僕はななさんの本名だって知らないんだから。
真さんは幼馴染みなんだから、当然知ってるよな……
「俺等は兄弟みたいなもんだから」
「そう、なんですか……」
「おうよ。俺にとったら、生意気な妹って感じだな」
兄弟みたいか……
そういえば真さんも名字は名乗らなかったな。
真っていうのも本名かどうか分からないし、この人達は何か本名を名乗れない理由でもあるのか?
「ん? どうした創太?」
「いえ、あの……真さんも、名前は名乗らないようにしてるんですか?」
「まぁ、そうだな。俺は結構偽名で仕事する事が多いからな。下手に本名は名乗らないようにしてるぜ」
「そう、なんですか……」
偽名で仕事することが多いって何だ?
悪い人達じゃないのは勿論分かってるんだけど、本当に謎の多い人達だ。
お互いは分かり合ってるんだろうけど……
「あー、あれか。みーも本名を言わないからか。俺とみーが本名言わない仲間で、お揃いだと思ったってか?」
「お、お揃いとか、そういう事じゃないんですけど……」
僕はさっきから曖昧な返事しかしてないっていうのに、何で真さんには分かるんだろう……
僕自身でさえ気がついてない僕の気持ちとか……
「一応言っとくと、俺とみーが本名を名乗らない理由は全く違うぞ」
「え?」
「みーが本名を名乗らないのは自衛目的だ。こいつは調べれば分かる、そこそこに名の知れた有名人なんだよ。何しろ海外の名門大学で、とんでもねぇ論文とか発表しまくってたからな」
「海外の名門大学……」
確かに大卒って言ってた……
◎◎大学レベルは行ってるんだろうとは思ってたけど、海外とまでは思ってなかったな……
しかも論文を発表しまくってるって……
「だから下手に名前が広がるのは困る訳だよ」
「なるほど……えっと、じゃあ真さんは?」
「俺はよく偽名を使うんだ。佐藤、鈴木、高橋とかな。因みに本名は朝桐真だ」
「……って、え? 言っちゃっていいんですか?」
「あぁ、別にいいぜ。ただ、俺を呼ぶときは真って呼んでくれよ」
「はい……でも何で偽名を?」
「それは仕事柄だな。まぁそうやってあちこちで偽名名乗ってるから、下手に本名も名乗れないんだよ。で、真の方は本名だから、信用できると思った奴には真って呼んでもらってるんだ」
信用出来ると思った奴?
一応僕も信用してもらってるのか?
「そうしておけば今後、俺が別の人と一緒にいる時に創太と会ったとしても、普通に話せるだろ?」
「確かに……いきなり会った僕には真さんがその人に対して佐藤って名乗ってるか、鈴木って名乗ってるかは分かりませんもんね。でも佐藤って名乗ってる時に、前に鈴木って名乗った人と会ったらどうするんですか?」
「それは問題ねぇよ。一応変装して見た目とか変えてるし、仮に似てるって言われても人違いって事で誤魔化せるさ」
何か難しいな……
どんな仕事してたらそんな事になるんだろう?
「そんな事、僕なんかに話して大丈夫なんですか?」
「当たり前だろ。創太はみーの助手だ。みーの助手なら大丈夫だ」
僕を信用してくれてるって感じじゃないな。
真さんはみーを、つまりななさんを信用してるんだろう。
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




