狂う調子
創太視点です。
カタッカタタッカタカタ
相変わらずのななさんがパソコンのキーボードをうつ音……
朝起きるとこの音が一番に聞こえる。
でも今日はいつもと少し違った。
いつもは隙間なくカタカタやってるのに、所々手が止まりながらカタカタやっていた。
「おはようございます、ななさん」
「………………」
ななさんはこっちを見もしないし、挨拶も返してくれない。
いつもならカタカタしながらでも返してくれるのに……
「あの、ななさん?」
「えっ! あぁ……創太。おはよう」
僕に気がついてなかっただけみたいだ。
近づいたらちゃんと気づいて話してくれた。
よかった……
今日もいつもと同じで、四角い物体朝食を作る。
前にあの、ななさんと仲の良さげな運送業者の人が持ってきてくれたので、まだご飯はなくなりそうにない。
「ななさん、朝ご飯です」
「あぁ、ありがと……」
なんだろう?
今日のななさんは若干元気が無いような気がする。
でも左手でパソコンやりながら普通に食べてるし、大丈夫か。
それを大丈夫と判断するのもどうかとは思うけど……
朝ご飯の片付けをして、僕もいつも通り昨日のテストの復習や、自主勉強をする。
♪♪♪♪♪
今日もいつもと同じ位の時間にななさんの携帯が鳴った。
昨日その前と、父さんが電話に出ていたし、今日も父さんなのかな?
仕事があるだろうし、流石に今日は違うか?
でも昨日、あんなにななさんの事気にしてたし……
僕が色々悩んでいると、ななさんは相変わらずスピーカーにして電話に出た。
「おはようございます」
「あ、おはようございます。ななさん」
電話に出たのは婆ちゃんだった。
やっぱり父さんは仕事か。
「お婆様、今創太君と代わりますね」
「ありがとうございます」
そう言っていつもの流れで僕の所に携帯を持ってきてくれる。
「婆ちゃん、おはよう」
「創ちゃん。今日はね、恵子さんが一緒なの」
「えっ?」
「代わるわね」
いや、ちょっと待て……
母さんに代わる?
「創太。その……おはよう。久しぶりね」
「……母さん」
一番喋りたくなかった。
婆ちゃんも何を思って電話を代わったんだろう。
僕が一番母さんを嫌いなのも知ってるはずだし、婆ちゃんだって、母さんは苦手って言ってたのに……
「その……ね、お母さんずっと、創太には勉強、勉強って言ってたじゃない? ◎◎大学へ行くようにって」
「うん」
「今日はそれをちゃんと謝りたくて……」
謝りたい? 母さんが?
世間体しか考えてない、あの母さんが?
「本当にごめんね……私、ちゃんと創太の事考えれてなかったわ。創太の人生は創太のものよね。今まで私が勝手に決めつけて、押し付けていた……でもっ! それが創太の為だって思ってた気持ちも嘘じゃないのよ、本当に」
本当に必死な母さんの声。
泣いてる……のか?
「創太からしたら、私はただのうるさい女だったわね……」
「そんな事はないけど……」
「いえ、そうだったのよ。ちゃんと自覚してる……本当にごめんなさい……」
「母さん……」
こんなしおらしい母さんは初めてで、僕もどう接したらいいのか分からない。
母さんは元々、どう接したらいいのか分からないとか以前に、関わりたくなくて無視してたけど、これは流石に無視できない。
「母さん……その、僕ちゃんと勉強してるから。心配しなくていいよ」
「そ、そう? でも無理のない範囲でね」
無理のない範囲? これは本当に母さんの言葉か?
何なんだよ無理のない範囲って……
今まで隙間時間は全部勉強って言ってたのに……
こんなんじゃ◎◎大学へ入れない、入ってもおいてかれるって……
なんか調子狂うな……
この母さんはもう、僕の知ってる世間体モンスターとは違い過ぎる。
「じゃあ……その、きるから」
「え……うん。創太、体調には気をつけて、ちゃんとご飯食べて、ちゃんと寝るのよ」
「うん。分かってる」
変に調子狂うし、何を話したらいいのかも分からないので、電話はきった。
何なんだろう……
普通の……世の中的に普通のお母さんとかが言いそうな事を言われた。
僕の母さんの言葉とは思えない……
本当に僕の事を心配して、謝ってくれてるって感じだった……
「お母様ともちゃんと話せて、よかったわね」
「そう、なんでしょうか?」
ななさんに電話を返して、少し考える……
父さんも母さんもらしくない……
あの2人らしくなさ過ぎる……
何かあったのか?
逆に僕が心配になって来ちゃうじゃないか……
ななさんが何か言ってくれたりしたんだろうか?
でも、父さんはななさんのことあれだけ怒ってて、僕にななさんの事を聞いてきたりするし、母さんは多分ななさんと喋ってすらいない。
そんなななさんが2人に何か言った所で、あの2人が何か考えを変えたりする訳がない。
だからきっとななさんが何か言ったとかじゃなくて、父さん達に何かあったんだろう……
何故か僕の家族は変わって来ている。
でもこれを悪い変化だとは思わなかった。
僕もちゃんと帰って、皆と話した方がいいのかな……
いやいや、僕は閉じ込められてるんだっ!
自分じゃこの家を出れないんだ!
そう、だから帰れない……
帰れないのは仕方のない事なんだから……
僕がそんな1人討論をしていると、
「はぁ」
と、ななさんが溜め息をついた。
珍しいな……普段は仕事中、溜め息とかつきもせずに、永遠とパソコンとカタカタやってるのに。
一区切りついたのか、ななさんはパソコンから離れ、洗面所の方へ歩いて行った。
トイレかな? と、僕も特に気にせず勉強の続きをしていたら、
バタッ
というすごい大きな音が聞こえた。
何事かと慌てて洗面所の方へ行くと、ななさんが倒れていた。
「ななさんっ!」
急いで駆け寄ったけど、どうしたらいいのか……
「だ、大丈夫ですか? え、えーっときゅ、救急車呼ばなきゃ……」
そう慌てる僕にそっと手を伸ばしたななさんは、
「きゅーきゅーはいらな……いから……」
それだけ言って、意識を失った。
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




