考え方
創太視点です。
いつもと同じくらいの時間、今日もななさんの携帯がなる。
ななさんがスピーカーにして出ると、婆ちゃんだった。
「おはようございます」
「おはようございます、お婆様」
昨日は急に父さんが電話に出たりしてビックリしたけど、今日は普通に婆ちゃんからの電話がかかってきた。
「あの、ななさん……昨日はすみませんでした。武が……その……」
「構いませんよ。今、創太君に代わりますね」
「あ、あのななさん。その、今日も武がいるんです。それでななさんに謝りたいと……」
え? 父さんもいる?
父さんが謝りたいって?
聞き間違えか?
「でしたら、必要ありませんとお伝え下さい。私は謝る気もありませんし、謝ってもらう必要も感じていませんから」
「そ、そうですか?」
ななさんは宥めるような優しい口調で、婆ちゃんに謝罪の必要はないと返した。
謝る気がないっていうのは、あの時の父さんをバカにしたような電話の事だろう。
嫌みったらしく、煽るような電話だった。
あれはどう考えてもわざとやってたし、悪いとは思ってないから謝る気もないんだろうな。
だからといってあの時の父さんの事も悪いとは思ってないから、謝ってもらう必要もないと言ってるんだろう。
前の僕なら父さんが謝るって言ってるんだし、自分は謝らなくても謝らせておけばいいのに、変な人だなって思ってたかもしれない。
でもななさんは、自分も相手が嫌な事を言ってるなら、自分が被害者ぶるのはおかしいって言っていた。
何を考えてるのか分からない変な人だけど、自分のそういう考え方は貫いている。
だから、今もこう言ったんだろうなと納得できた。
「じゃ、創太君に代わりますね」
婆ちゃんにそう言って僕の方に携帯を持ってきたななさん。
本当に父さんと喋る気はないらしい。
「はい、創太」
「ありがとうございます」
僕も普通に携帯を受け取って、婆ちゃんに挨拶をした。
「婆ちゃん? おはよう」
「そ、創ちゃん? ご、ごめんね。武に代わるわ」
え……それはそこに居るとしても、代わらないで欲しかったな……
さっきななさんに、父さんがいることを言ってたからいるのは知ってたし、代わられる気はしてたけど……
「創太!」
父さんだ。
朝からそんな大声……できれば聞きたくなかった。
どうしよう……昨日だってななさんに言われたこと言って直ぐにきっちゃったし、どうせまた長い説教が始まるだけだから、電話きろうかな?
返事をするのも嫌だし、電話をきろうとしてたら、
「創太、お前、体は大丈夫なのか?」
「えっ?」
という、いつもの怒鳴り声とは全然違う声で、父さんはそう聞いてきた。
ビックリして思わず声も出してしまった。
こんな、不安げな父さんの声を聞いたのは、初めてな気がする……
てっきり昨日みたいに怒られると思ったのに……
「え、うん、大丈夫……」
「ちゃんと飯食ってんのか?」
「うん」
「そうか……」
何だろう……父さんらしくない。
まるで僕を心配してるみたいじゃないか……
父さんはいつも自分の方が大変だって感じで、僕の相談なんてろくに聞いてくれた事もないし、"母さんを困らせるなっ!"ばかりで、僕が困ってるとは最初から考えてないような人だ。
そんな人が何で僕の体とか、ご飯とか、何で気にしてるんだ?
あぁ、婆ちゃんに聞けって言われたのか……
「その、創太……ななさんってどんな人なんだ?」
「え? ……変な人だけど……?」
「変な人……それは、そうみたいだな。ご飯とかちゃんと作ってくれてるのか?」
「作ってくれはしないけど……」
「じゃあ創太が作ってるのか?」
「作ってる訳でもないけど……」
「ちゃんと食べてるんだよな?」
「それは、食べてるけど……」
「そうか……」
こういう曖昧な返事をした時とか、僕が話してる事を父さんが理解しなかった時とかは、大体いつも"はっきりしろっ!"って怒ってくるのに……
「ななさんって名前は創太がつけたらしいな」
「そうだけど?」
「何でななさんなんだ? 本名は創太も聞いてないのか?」
「本名は聞いてない……ななさんっていうのは、名無しの権兵衛でいいっていってたから、名無しからとってななさんって呼んでるだけ」
ななさんの事を知りたくて僕に聞いてるのか?
でもそういう感じもしない……
こんな風に普通に父さんと会話したのなんて、いつぶりだろう?
「歳はいくつくらいの人なんだ?」
「僕とそんなに変わらないくらいの見た目だけど、歳は分かんない……」
昨日とか何か子供扱いしてきたし……
勉強とか教えてもらってるし、対等じゃないのは分かってるけど、あぁいうあからさまに差を感じさせられるのは、何か嫌だ。
もっと、ちゃんと認めてほしいというか……
「その、一応聞くが、ななさんは1人だよな? 2人はいないよな?」
「え? うん。1人だけど?」
「俺と婆ちゃんが電話したななさんは、同一人物だよな?」
「そうだけど?」
「二重人格か?」
「二重人格ではないけど、変な人だから……でも、自分に対して真っ直ぐな人なんだと思うけど」
「そうか」
これだけななさんの話をしてるというのに、ななさんは全く興味がないという様子だ。
パソコンとカタカタやってる。
何だろう、僕の事とかどうでもいいのか?
これでも結構勇気出して父さんと喋ってるっていうのに……
もう少し興味もってくれたっていいのに……
というか、父さんと喋り過ぎだよな……
もうそろそろ終わってもいいかな?
「あ、あのさ、僕そろそろ勉強の続きするから」
「おう……そうか、頑張れよ」
「うん……」
父さんとの電話はそうして終わった。
長い説教以外でこんなに父さんと話したのは初めてな気がするな……
父さんと喋るなんて朝から疲れる事をしちゃったな……と思ったけど、不思議とそんなに疲れてはなかった。
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




