子供扱い
創太視点です。
カタカタカタカタ
今日もななさんのパソコンの音で目が覚めた。
相変わらずななさんはパソコンから離れない。
電話を受け取らない作戦もダメだったし、トイレにでも閉じ込めてみようか……
いや、ななさんは筋肉凄いんだった。
多分扉壊してでも出てくるよな……
朝食の後、そんな事を考えていたら、ななさんの携帯がなった。
「おはようございます、ななさん」
スピーカーから婆ちゃんの声が聞こえる。
「お婆様、おはようございます。今創太君と代わりますね」
ななさんが僕のところに携帯を持ってくる。
受け取らなくても意味はないので、ちゃんと受け取ることにした。
「婆ちゃんおはよう」
「創ちゃん、おはよう」
婆ちゃんに相談でもしてみようかな?
でもななさんに丸聞こえなんだよな……
ななさんの電話持って部屋出てくのもおかしいし……
ななさんはパソコンに夢中だけど、多分僕と婆ちゃんの会話を聞いてない訳じゃないだろうし……
と、僕が悩んでいたら、
「母さんっ! やっぱり創太と連絡してたんだなっ!」
「た、武!?」
携帯からそんな声が聞こえた。
そしてすぐに、
「創太っ! お前、ふざけるのも大概にしろってんだっ! いい加減に帰ってこいっ!」
耳が壊れるかと思うほどの怒鳴り声が聞こえた。
「父さん……」
「訳の分からないふざけた女の……」
思わず電話を切ってしまった。
「ふふっ。うるさいわね、創太のお父様は」
ななさんが楽しそうに笑ってた。
パソコンを打つ手も止まってる。
「いつもそうですよ。家に帰ってきて、俺は疲れてるんだーって威張り倒して、僕の話なんて何も聞いてくれない」
「あー、いるわね。そういう人。まるで自分だけしか疲れてないと思ってるタイプね」
「そうなんですよ」
いつもそうだ。
自分の思い通りじゃないと、怒鳴って無理やりに従わせてくる。
僕の話も婆ちゃんの話も聞こうとしない。
疲れてる、仕事してる、俺は大変だ、そんなんばっかりだ。
「でもね創太。そのお父様が働いてくれてるから、あなたが生活出来ていたんだって事も忘れちゃダメよ」
「……はい」
笑ったりしてふざけてるのかと思ったら、こういう真面目な事を言う……
ななさんはやっぱり変な人だ。
「創太はお父様が帰ってきた時、いつも何してたの?」
「別に、特に何も……部屋で勉強してましたよ。じゃないと母さんもうるさいし……」
「ふーん、そう。なら次お父様から電話がかかってきた時は、"いつもお仕事お疲れ様"って言いなさい」
「はぁ? 何でですか?」
「言ったら電話切ればいいから」
「……分かりました」
それだけ話して、またパソコンに戻ってしまった。
僕も勉強に戻る。
それから少し時間が経って、ななさんの携帯はなった。
♪♪♪♪♪
「鳴ってるわよ、出ないの?」
「ななさんの携帯ですよ。勝手に出るわけには……」
「いいわよ。このタイミングでかけてくるんだもの、創太のお父様でしょ?」
「でないとダメですか?」
「さっきの言葉、言ったら電話切っていいから」
「分かりました」
仕方なく電話にでた。
「あ、あの……」
「創太」
やっぱり父さんだった。
婆ちゃんだったらよかったのに……
「と、父さん。さっきは電話、急に切ってごめんなさい……」
「そっ、そうだぞ! お前な、いい加減に」
「父さんっ!」
「おっ……なんだよ?」
いつもの説教が始まりそうなのを打ち切って、
「その……いつも仕事、お疲れ様。そ、それだけ」
「……お、おう」
ななさんに言えと言われた言葉を言った。
てっきり打ち切ったのを怒ると思ったのに、父さんは思いの外静に返事をした。
もう言うことは言ったし、これ以上電話をする必要もないので、
「じゃあ」
と、電話を切った。
「ちゃ、ちゃんと言いましたよ」
そういいながら、ななさんに携帯を返すと、
「そうね。よくできました」
と、頭を撫でられた。
こんな時に子供扱いか……
その後はもう、電話はかかって来なかった。
いつも通りに授業をして、雑用をして、漫画を読んで、寝た。
急に父さんが出たときはビックリしたけど、そのお陰でいつもよりはななさんをパソコンから離れさせる事にも成功したし、結果的にはよかったと思っておこう。
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




