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スノーフレーク  作者: 猫人鳥
episode3 少年誘拐加害者編

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感情的

創太の父視点です。

 創太が帰って来なくなってから2週間程がたった。

 一応毎日創太の携帯に電話をかけてみてはいるが、常に電源が入っていないようでかからない。

 警察にかけてもご安心下さいしか言われない。

 職場でもイライラして、仕事が思うようにいかない。


 朝、いつもなら聞こえる恵子の創太を起こす声。

 ちっとも起きてこない創太に俺もイライラして、学校へちゃんと行くように叱る。

 俺みたいに仕事で、自分から動き回り、予定をたて、人間関係に無駄に気を使わなければいけないような訳でもなく、決められた予定をこなすだけの学校の、何がそんなに嫌なのか。


 いつもならそこに腹をたてていたが、創太がいなくなった今では、あのふざけた女が腹立たしくてしょうがない。

 あの誘拐犯。

 早く創太を取り返さないと苛立ちも治まらないし、仕事にも支障がでる。


 恵子も似た感じだ。

 毎日電話をかけてはいるが繋がらない。

 心配で仕事のミスが多いと言っていた。

 これも全部、創太を誘拐したあの女のせいだ。


 だが、そうやって俺と恵子が普段通りにいかず不調な中、母さんは特に変わった様子はなく、平然としている。

 逆におかしすぎるだろ。

 母さんはどちらかといえばすぐに動揺するタイプだ。

 こんな事になっている今、いつも通りな感じで過ごせるような人じゃない。


「創太……何してるのかしら……?」

「きっとあの女の人に任せておけば大丈夫よ」


 恵子が創太の事で悩んでいても、きっと大丈夫だとか、あの女がついてるとかそんな事ばかり言っている。

 もちろん心配してる様子もあるが、母さんの性格を考えてもここまで落ち着いていられるのは絶対におかしい。

 もしかして、母さんは創太と連絡ができているんじゃないのか?


 俺は有給を使って会社を休んだ。

 だがそれを母さんや恵子には言わなかった。

 母さんが本当に創太と連絡をとっているのかを確認するためだ。

 仕事に行く振りをして、一度出てから音をたてずに家に帰る。

 全く、何で俺がこんな泥棒みたいな真似をしなきゃいけないんだ。


 母さんは朝食の食器等を片付けて、一息ついたところで携帯を取り出した。

 そして電話をかけ始めた。

 まさか、創太に?


「おはようございます、ななさん」


 ななさん? 誰だ、それ?

 俺の知る、母さんの知り合いにはない名前だな……

 そしてそのまま様子を伺っていたら、決定的な一言が聞こえた。


「創ちゃん、おはよう」


 やっぱりだ。

 やっぱり母さんは創太と連絡をとってたんだ。

 そうと分かれば俺のとる行動は1つだった。


「母さんっ! やっぱり創太と連絡してたんだなっ!」

「た、武!?」


 俺は母さんから無理矢理に携帯を奪い取り、


「創太っ! お前、ふざけるのも大概にしろってんだっ! いい加減に帰ってこいっ!」


と、叫んだ。


「父さん……」


 か細い声でそう聞こえた。

 創太だ、久しぶりに聞いた創太の声だ。


「訳の分からないふざけた女の……」


………ツー、ツー


 ふざけた女の所にいつまで居るつもりだ? と言おうとしていたのに、電話は切られていた。

 創太が切ったのか?


「くそっ!」

「武?」

「母さん! どういうことだ? 母さんはずっと創太と連絡してたんだな?」

「あ……あぁ、その、ごめんなさい」

「大方、あの女に俺等には言うなとか言われてたんだろ?」

「えぇ……」

「ったく、んなこったろうと思ったよ」


 思った通り、母さんは創太と連絡がとれてたんだ。

 だからあんなに落ち着いていられたんだ。


「ななって言うのか、あの女は……」


 俺には名乗る名なんて無いとか言っておきながら……


「あ、でも……ななさんっていうのは本名じゃないらしいの。創ちゃんがつけたあだ名らしいから……」

「は? 創太がつけた? なら結局あの女の名前は?」

「分からないわ……」


 くそっ、ふざけてやがる。


「で、母さんはどうやってかけてたんだよ。あの女の番号でも教えてもらったのか?」

「ええ……」

「ならもう一度かけてくれ。俺が喋る」

「でもさっき、あんなに怒鳴って……あれじゃ創ちゃんだってもう出てくれなくなっちゃったかもしれないわ……」

「それならそれであの女ともう一度喋るさ。あのろくでもない女とな!」


 創太を誘拐し、母さんにまで嘘をつかせた。

 本当にどこまでも人をバカにしている。


「そんな言い方ないわ! ななさんはとても良い方よ」

「ったく、なんで母さんはそんなにあの女を、弁護するんだよ」

「武、あのね。ななさんは武の思ってるような悪い人じゃないわ」

「はぁ? そりゃ母さんは番号も教えてもらって、なんか色々喋ってたからそう思うかも知れねぇけど、俺等からしたらなんの連絡も寄越さないで、ずっと創太を誘拐してる誘拐犯なんだよ。しかも、俺等にバレねぇように電話かけるように言ってたんだろ? そうやって母さんにまで嘘つかせて……」

「違うのよ、最近の創ちゃん。とても楽しそうに話をしてくれるのよ」

「は?」


 母さんは俺を諭すように、宥めるように話してくる。

 こういう母さんは久しぶりに見たな……


「最初はほぼ何も喋ってくれなかったのに、今では何を食べたのかとか、何の勉強をしたのかとか話してくれるのよ。何をどう勉強して、新しく覚えたとか問題が解けたとか、とても楽しそうに話してくれていたの」

「そんなの前から母さんとは喋ってたんじゃないのか? 創太はもともと母さんにだけはよく喋ってただろ?」


 俺には特に何も喋りはしなかったが、母さんにはよく喋っているのをみた。


「私に話してくれていたのは、今日のお弁当が美味しかったとか、テストの点も少しだけ上がったとか、その程度よ」

「そうなのか?」

「ねぇ、武? 私達はこの家で、あれだけ長い間創ちゃんと過ごしていたけど、創ちゃんが楽しそうに過ごしている所を見たことがあった?」

「見たことも何も、創太はいつも部屋にこもって勉強してるだろ? あいつ成績悪いし、いつも恵子が怒ってたじゃないか」

「そうね。そうやってあんなに嫌そうに勉強していた創ちゃんが、楽しそうに勉強の話をするのよ? 想像できる?」


 それは確かに想像できないし、母さんと喋ってる時でさえ見たことがない。

 創太は学生の本分である勉強も、恵子に言われて嫌々にやるような奴だ。

 自分から楽しく勉強の話なんてするわけがない。


「ななさんのお陰で創ちゃんは変わったわ。確かに名前こそ分からないけど、私はあの人に創ちゃんを任せて良かったと思ってる。名前を言えないのだって、何か事情があるんだと思うわ」

「なんでそんなに信用してるんだよ?」

「創ちゃんが、電話から聞こえる創ちゃんの声が、本当に楽しそうだからよ」


 楽しそうな創太か……

 最後に見たのは何時だったか……


「母さん、やっぱりもう一度電話をしてみてくれ」

「武……」

「いや、俺もちょっと感情的になりすぎてた。もう一度ななさんとちゃんと話したいんだ」


 最初のあの態度……

 あれには本当に腹が立った。

 だが昔からよく、感情的になりすぎだと言われていたし、すぐに怒鳴ってしまうのも俺の悪い癖だ。

 それは俺だって自分で分かってる。


「なら、かけ直すけど……もし、創ちゃんが電話に出てくれても、さっきみたいに怒鳴らないでよ」

「分かってる……」


♪♪♪♪♪


 呼び出し音が鳴っている。

 なかなか電話にでないな……どうしたものか、と思っていたら、


「あ、あの……」


と、声がした。

 電話に出たのは創太だった。

 ななさんはどうしたんだ? これはななさんの携帯だろうに。


「創太」

「と、父さん。さっきは電話、急に切ってごめんなさい……」

「そっ、そうだぞ! お前な、いい加減に」

「父さんっ!」


 俺が怒鳴らない様にと気を付けながら、ちゃんと帰ってくるように言おうとしていたのに、俺を呼ぶ、叫ぶような創太の声に、俺の声はかき消された。


「おっ……なんだよ?」

「その……いつも仕事、お疲れ様。そ、それだけ」

「……お、おう」


 俺の声を打ち切ってまで何を言うかと思ったら……

 そもそも創太が俺の話をこんな風に無理やりに打ち切ったのは初めてだな……

 その驚きで、俺が反応に戸惑ってしまった。


「じゃあ」


その一言が聞こえた時には電話を切られていた。

 創太と話せたのは結局それだけ……本当はもっと言ってやりたい事があったのに……

 でも不思議と、もう一度かけ直す気にはならなかった。


読んでいただきありがとうございます(*^^*)

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