会話
創太の祖母視点です。
昨日は普通に寝れた事もあり、普段通りに朝目覚めた。
創ちゃんの事はもちろん心配だけど、それで私が休めなかったりしてたら意味ないものね。
今日ももちろん創ちゃんを起こす恵子さんの声は聞こえない。
昨日と同じで、異様に静かな朝だった。
元より賑やかという訳でもないけれど、本当に静かに3人で朝食を食べた。
今頃創ちゃんもご飯を食べているかしら?
ななさんと楽しく2人で笑い合いながら……ちょっと、あんまり想像できないわね。
必要最低限以外は喋らない感じで朝食を終えて、武も恵子さんも仕事に行った。
2人はななさんにも連絡できないし、私よりも不安は大きいでしょう。
でもななさんから2人には気付かれないようにと頼まれたし、私が連絡をとっていることは話せない。
2人を見送って、少し落ち着いてから電話をかけた。
「はーい」
電話に出てくれたのは相変わらず、ななさん。
まぁ、ななさんの携帯にかけているのだから、当然と言えば当然なんでしょうけど……
「おはようございます。創太の祖母です」
「お婆様、今日もご連絡ありがとうございます。創太ー? お婆様と話す?」
ななさんが創ちゃんに聞いてくれてる。
でもやっぱり創ちゃんの声は聞こえない。
「すみません、今日もシャイボーイですね」
「そうですか……」
「では創太君に変わって私が創太君の様子をお伝えしますね」
「ありがとうございます」
シャイボーイ……ななさんは創ちゃんが電話に出てくれない理由を、恥ずかしいからだと言ってくれてる。
創ちゃんからしたら気まずいから話したくないのかとも思ったけど、本当は私と話したくないんじゃないかしら……?
創ちゃん本人の声は聞こえないけど、創ちゃんの様子は教えてもらえる。
それだけでもありがたい事よね。
「じゃあまず、昨日の創太君の様子ですが、創太君って結構甘えん……」
「わぁぁぁああーわわっ!」
「ちょっと何? いきなり大声だして」
ななさんが創ちゃんの様子を教えてくれようとしてた時、何か大声で叫ぶような声が聞こえた。
この声……創ちゃん?
「そ、創ちゃん? 創ちゃんなのね!? え、何かされてるの? 大丈夫なのよね?」
「ほらもう、創太が急に変な声出すから、お婆様も心配してるわよ。これじゃ私が創太に何かしたみたいじゃない」
創ちゃんはどちらかと言うと物静かなタイプだし、あんな大声で叫ぶような事をする子じゃない。
何か余程の事があったのかしら……
そもそもななさんだって私が勝手に信用してるだけで、本当に信用していい人なのかも分からないし、武の言うような人だったら何か創ちゃんの嫌な事とかしてるんじゃ……
でも今、"これじゃ私が創太に何かしたみたい"って聞こえたし、ななさんが何かした訳じゃないのよね?
創ちゃんはきっと無事よね?
「あ、あの……ごめん婆ちゃん。僕は大丈夫だから……」
なかなか返事のない電話から聞こえてきたのは、創ちゃんの声だった。
少し震えるような、本当は話したくないのに無理をしているような、そんな声……
それでもやっと創ちゃんの声を聞くことが出来た。
「あぁ……創ちゃん、創ちゃんね。本当に無事で良かったわ……」
「うん、心配かけてごめん……」
「創ちゃんが無事でならそれでいいわ。何か困ってる事とかない? 大丈夫?」
「えっ……あー、うん。大丈夫」
若干悩み気味での大丈夫という返事。
それでも、創ちゃんが今凄く困っている訳ではないようで安心した。
改めて思うと、自殺なんて事をしようとしていた創ちゃんに対して、困ってる事はないか? という質問の、なんて手遅れな事なのかしら。
私は本当に、創ちゃんの為に何もできてなかった……
「僕は本当に大丈夫だから、心配しなくていいよ。婆ちゃんも変な無理とかしないでね」
「えぇ、ありがとう創ちゃん」
「じゃ、じゃあ」
創ちゃんのその声で電話は切れた。
ちゃんとした会話も出来なかったし、もう少し創ちゃんと話していたかったという思いもあるけれど、何よりも無事でよかった。
やっと……本当にやっと創ちゃんの声を聞くことができた、話すことができた、それだけ嬉しさが込み上げてくる。
ななさんの事は信用していたし、疑っていた訳ではないけど、それでもやっぱり自殺しようとしてた所を保護したって急に言われて、創ちゃん本人の声も全く聞けてない状況だったから不安もあった。
もしかしたら創ちゃんは、自殺するということだけを考え続けてる、暗い1日を過ごしているんじゃないかとか、ななさんに無理やり自殺を止められたとかで、凄く嫌悪しているんじゃないかと心配もしてたけど、大丈夫そうね。
それにしても、元気な叫び声だったわね。
普段は、何かあってもあんな風に声をあげる子じゃないのに……
叫び声だったから少し心配ではあるけど、創ちゃん本人が大丈夫だと言っていたし、無理矢理に大丈夫とかを言わさせてる感じもなかった。
むしろ、あんなに大声を出せるほど元気なんだって思えて安心した。
それに私の心配までしてくれてたし、創ちゃんのそういう優しい所は相変わらずなんだと嬉しく思った。
ななさんも創ちゃんはまだ落ち着かない様子だと言っていたし、私が変に慌てたりしてたら創ちゃんも困ってしまうわよね。
まず私がちゃんと落ち着いて、創ちゃんが帰ってくるのを待つとしましょう。
ななさん……顔も何も分からないけど、どうか、どうか創ちゃんの事を、よろしくお願いします。
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




