馬耳東風
創太視点です。
朝と変わらずパソコンのカタカタ音と、僕がページを捲る音だけが響いている部屋。
お腹も空いてきたので時計をみると、13時になろうとしていた。
僕はお昼御飯を作るために立ち上がって、大量の四角い物体の落ちているスペースへ行き、適当に2つ拾う。
ここにあるのは何でも美味しいと分かったので、もう選ぶ必要はない。
お椀に入れてお湯を注ぎ、適当な飲み物と一緒に持っていく。
「ななさん、お昼御飯ですよ」
「ありがと」
ななさんは僕が声をかけないと、顔も上げずずっとパソコンでカタカタやっている。
僕が立っても、近くを通っても特に気にする様子はない。
気付いてない訳じゃなくて、気にしてないというか、僕の行動に興味がないという感じだ。
まぁ、声をかければ反応してくれるので、無視されている訳じゃないけど、本当に変な人だ。
「で、創太。もう昼だけど読み終わったの?」
「まだですけど」
お昼御飯を食べてたら聞かれた。
そんなに早く読み終われる訳がない。
それに、なんか読んでると変な感じになって、ページが進まなくなってくるから読みにくい……
「読みにくいの?」
「え?」
僕、今の声に出してたかな?
「えっと……その、やっぱり今、こんな事してていいのかなっていうか、こんな事してる場合じゃないって思えてしまって……だって本当にただ漫画読んでるだけですし……それで時間だけが過ぎていくのが慣れないというか……」
「なら、どんな事してる場合なの?」
僕のしどろもどろな言い訳に対して、質問してくるななさん。
どんな事してる場合かなんて……今日は平日だし、こんな時間だし、いつもなら学校へ行っているんだから……
「学校へ行くべきですか?」
「何で?」
「学生はやっぱ、平日のこの時間は学校で勉強をするのが普通かなって……」
「でも創太は行きたくなかったからここに来てたんでしょ?」
それはそうだ。
僕は学校にも行きたくなかったし、家にも居たくなかったから、ここから旅立とうと思ったんだ。
ななさんと会って無理にはなったけど……
「今、創太は学校に行きたいの?」
「行きたくはないですよ。学校へ行くとまあまあうるさい人達と過ごさないといけなくなりますからね。もともとそれが嫌でここに来たんですし……」
「その、まあまあうるさい人達の事が嫌なんでしょう? だったらどうしてその人達の為に旅立とうとしてたの?」
為に?
なんかななさんの言い方だと、僕があいつ等の事を思って、あいつ等の為に旅立とうとしていたみたいじゃないか。
「別に僕はあいつ等の為に旅立つんじゃなくて、自分の静かな平和の為に……」
「旅立とうと思った原因はその人達なんでしょう? だったらそいつ等の為に旅立とうとしていたって事で間違ってないわ。"為"っていう言葉には原因という意味もあるのだから。でも"為"は、利益とか、役に立つという意味でもあるのよ」
「それは、そうですね」
「でしょ? ならそいつ等の為に旅立つって事じゃない。そんな嫌な奴等の為に創太が人生かけてあげる必要はないわ」
「僕があいつ等の為に、自分の人生をかけてあげてる?」
「そうじゃない?」
僕は僕の平穏の為にと思ってたはずなのに、あいつ等の為になるような事をしようとしていた?
僕の人生をかけてあげてまで?
違う……僕はあいつ等の為になる事をしたかったんじゃない!
「あいつ等の為とかじゃないんですよ! 僕は毎日毎日うるさいだけの日々しか送ってなかった。そんなの生きてる意味とかないじゃないですかっ! だからこの世界に僕は必要ないって……」
僕がまるであいつ等の為になる事をしようとしてた、みたいなのにムカついて、思わず大きい声を出してしまった。
でもななさんはそんなの気にする素振りもなく、首を傾げて、
「ん? 逆じゃない? 世界が創太を必要とするんじゃなくて、創太が世界を必要とするものでしょう?」
と、変な反論をしてきた。
「僕が世界を必要とする?」
「世界が創太を必要とするわけないでしょ? そもそも世界は別に人間なんて必要としてないわ。現に何千万年前の恐竜の時代とかに、人は存在していないんだから。人がいなくとも世界はあるって事はそういう事なのよ」
「は、はぁ……」
急に何の話が始まったんだ?
恐竜とか、どっから湧いて出た?
「必要とされたいのなら、"世界に"じゃなくて"人に"必要とされるようになりなさい。そのために創太自身が世界を必要としなさい」
なんかもう、混乱してきた……
世界とか、必要とされる人とか……
僕ってそんな壮大な事、考えてたっけ?
「あの……僕はただ、うるさくない日々を……」
「だったら今、静な所にいられるんだから良かったでしょ? それにここは、創太が学校よりも来たかったマンションの一室な訳だし」
「いや、別に僕はこのマンションに来たかった訳じゃ……」
「でも学校をサボってまでこのマンションに来たんだから、創太は来たかったのよ。自分で気付いてないだけで」
また変な事を言い出したな。
僕がこのマンションを選んだのは偶々なのに、自分で気付いてないだけでこのマンションに来たかったとか……
「本当にどこでもよかったんですよ」
「なら、ここで良かったわね。私も助手ができて良かったわ」
結局また、僕がななさんの助手って話に戻った。
「助手ならせめてもう少し仕事を下さいよ。こんな日中漫画を読んでるだけなんて……」
ちゃんと仕事らしい仕事が出来れば、今のこんな事してていいのか感も減るのに……
「それも私からしたら仕事のうちなんだけどなー。まぁ、アレか。今まで学校とかサボったこともない創太には、今の現状は慣れないのかもしれないわね」
「こんな知らないところに閉じ込められて、漫画を読まされる現状なんて、僕以外の人でも慣れないですよ」
僕は嫌味を言ってるのに、ななさんは全く聞いていない。
「うーん? ようはここで学校みたいな勉強ができれば、創太の言う、こんなことしてる場合じゃない感も消えるんじゃない?」
「僕の話、聞いてないんですか?」
「創太、ここで勉強しなさい。前にも言ったけど、勉強なんて独学でもどうにでもなるのよ。分からない所は私が教えてあげるから」
人の話を欠片も聞かないななさんに、僕は半強制的に勉強をさせられる事になってしまった。
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




