電池切れ
創太視点です。
ななさんと婆ちゃんの電話がやっと終わった。
随分と適当な事を言われたので、少し反論しておく。
「変な電話、しないで下さい」
「あら? 私、何かおかしな事言ったかしら? 全て事実だと思ったのだけど?」
「僕は別に、恥ずかしがり屋だから電話にでない訳じゃないですし」
僕がそう言うと、ななさんは手を自分の口の前で広げて、
「えーーっ、違ったのぉー?」
と、とてもわざとらしく驚いた態度をとってきた。
「なんですか、そのわざとらしい感じは。恥ずかしいから電話にでない訳でもないし、お寝坊さんとかでもないです」
「でも起きなかったじゃない?」
「それは、起こされなかったからで……」
「創太、あなたもういい年して、まだそんな言い訳使ってるの?」
「そ、そういう事じゃなくて、起こされるのが習慣になっちゃってるから、自然には起きにくいってだけで……」
「分かったわ。つまり、私に起こして欲しかったって事ね。全く甘えん坊なんだから」
「いや、全然そういう意味じゃないんですけどっ!」
昨日もそうだったけど、ななさんとは喋ってもまともな会話にならない。
この人は、人の話を聞く気がない。
「まぁ、何でもいいわ。とりあえず創太、今日の昼までにその漫画、全部読み終わりなさいね」
さっきまでのふざけたテンションから一転、真面目な感じで急に話を変えられた。
「え……まだ結構あるんですけど……」
僕は漫画とか読みなれてないし、読むのは遅い方だ。
昼までなんてそんなに時間ないし、今日中に読みきれるかどうかも微妙だ。
「お婆様にも創太を助手としてこき使って下さいって言われたし」
「いや、言われてないですよね?」
なんかまた変なことを言い出した。
いつ婆ちゃんがそんなこと言ったんだ。
「え? でも、創ちゃんの事をよろしくお願い致しますって言ってたわよ」
「それは普通に僕の事を頼んでるだけで、誰もこきつかえなんて言ってないじゃないですか!」
「あら、そうだったの? 私はてっきり助手にどうぞって意味かと思ったのに……」
「なんでそうなるんですか……」
さっきのふざけたテンションと違い、真面目にそう言ってくるななさん。
ふざけて言ってるのか真面目に言ってるのか分からない。
「そもそも、ななさんはおかしいから分かんないかもしれないですけど、普通は自殺しようとしてる人間を助手としてこき使おうとはしないですからね」
「失礼ね、まるで私がおかしな人みたいな物言いだわ」
いや、十分におかしな人だろ。
僕が言った正論が気に触ったようで、ななさんは少し怒った感じになった。
「それなら創太のいう普通は、自殺しようとしてる人間をどうするの?」
「えっ、それは……多分、自殺を止めて」
「私、止めたわよ」
確かに止めた。
無理矢理引っ張って、僕に怪我させたけど。
「なんで自殺しようとしてるのかとか聞いたり?」
「聞かれたいの?」
「いえ……」
「ならいいじゃない」
確かにななさんが聞いてこないから、嫌な事を忘れて漫画も読めるんだけど……
「いやでもだからって、助手としてこの部屋に閉じ込めてこき使おうって発想は、どう考えてもおかしい人じゃないですか!」
「でも私、助手欲しかったし、丁度いい人材がいたら使って当然でしょ? ほらね、私はおかしい人ではないのよ」
なんかもう、変に反論するのも面倒くさくなってきた。
多分何を言っても変な屁理屈を返されるだけだ。
「そうですね、もういいです。でも婆ちゃんが僕の事をよろしくって言ったのは、こき使えって意味じゃなくて面倒みてあげてって意味なんで、それが理解できないのは十分におかしな人だと思いますけどね」
「なーんだ! 創太は私に面倒をみて欲しかったって事ね! 結局甘えん坊なんじゃない!」
「はぁ?」
多少の嫌みを込めて言ったのにふざけて返される。
また婆ちゃんから電話かかってきたりしたら、今度は僕の事を甘えん坊だとか言う気じゃないだろうな?
そんなことを言われたら絶対に変な勘違いをされてしまう……
なんか、ななさんは言いそうな気がするな……
「別に甘えん坊とかじゃないんで、面倒みてもらわなくて大丈夫です」
「そう、なら早く読み終わりなさい」
また真面目に戻ったななさんは、それだけ言ってパソコンの方に戻っていった。
本当にこの人の情緒はどうなってるんだ?
僕も漫画を読みきらないといけなくなったみたいだいし、また漫画に戻った。
ついさっきまでななさんと騒々しく会話していたのに、急に部屋は静かになった。
少しペースをあげて漫画を読んでいく。
昼までに読みきるのは無理だろうなと思いつつ、時計を確認するため携帯をつけようとしたけど、電池が切れていてつかなかった。
ななさんとのやりとりですっかり忘れていたけど、僕の携帯切れてたんだ。
だから家族とも電話しなくて済むと思ってたのにな……
「ななさん。何で婆ちゃんはななさんの携帯番号知ってるんですか? いつ教えたんですか?」
「あー、昨日の夜ね。お婆様が寝れてないんじゃないかと思って私からかけたのよ。夜更かしは美容の大敵だからね」
「何で婆ちゃんの携帯番号知ってたんですか?」
「そんなの、創太の携帯で最初にかけた時に見たわ」
あの電話の時、そんなに長い時間でもなかったのに電話番号を覚えてたんだな。
でもそれって、最初から自分の携帯でかけ直すつもりじゃなかったら覚える必要はないよな。
「その時に覚えたって事は、自分の携帯でかけ直すつもりだったんですよね? 何でですか?」
「やたら質問してくるわね。それも最初にお婆様にかけた時に、創太の携帯の電池がもうなくなる事に気づいたからよ。あれだけ電池がなくなってるのに気付いてない訳ないじゃない。ということは、創太は充電する気がないんでしょう? だったら電池が切れた時、お婆様が困るじゃない」
「そう、ですね」
わざわざ昨日の夜に、それも僕が寝てから電話をしてるんだし、僕に内緒で婆ちゃん達に僕の事を知らせようとかしたのかとも思ったけど、それなら僕がいるところでスピーカーを使って、こんな堂々と喋らないだろう。
でも、だからといって僕の携帯の電池がなくなりそうだと気づいたのなら、その時に充電していれば良かったはず。
「僕の携帯を充電すれば良かったんじゃないですか? わざわざ自分の番号婆ちゃんに教えなくても」
「人のものを勝手に充電する気にはならないわ。創太はそれ、充電したいの?」
「いえ、いいです」
僕にとってこの携帯はただの時計だ。
電池が切れたなら、見るのを携帯から部屋の時計に変えればいいだけの事。
僕の携帯を充電する必要はない。
でもななさんにとっては、僕の家族との連絡手段だ。
なのに電池が切れかけてる事に気づいていながら、充電をしなかった。
人のものを勝手に充電する気はないって言ったけど、どう考えても嘘だ。
つまりななさんは、最初から僕の携帯を充電する気はなく、婆ちゃんに自分のでかけ直すつもりだったんだろう。
それが何でなのかは分からないけど……
これ以上聞いても適当に返事を返されるだけだし、僕に内緒で連絡を取り合いたい訳でもないみたいなので、もう気にしないことした。
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




