安心感
創太の祖母視点です。
武が怒ってかけた2回目の電話は無視されてしまった。
そのあとの恵子さんの電話も無視された。
私がかけて出てくれるかしら?
でも、もし出てくれなかったら、創ちゃんとの連絡手段は本当に何もなくなってしまう。
今の流れで電話をかける勇気もなくて、結局電話はかけれなかった。
私も武も恵子さんも、誰も何も喋らず夕食を食べた。
武は早々に風呂へ入り、寝室で寝てしまったみたい。
大分イラついていたし、武が寝てくれて正直落ち着いた……
恵子さんも寝室へ入っていて、私も自室に戻る。
布団に入って、寝ようと横にはなったけど、全然眠れない。
あの女の人……私が少し話をした印象だと好い人そうだったけど、あんなに武を怒らせて……
確かに武は少し怒りっぽいところがあるけど、ちゃんと常識もあるはずだと思っていたんだけど……
創ちゃんは大丈夫なのかしら?
♪♪♪♪♪
深夜の2時頃……
突然、私の携帯に知らない番号から着信があった。
誰からかしら? それもこんな時間に……
「はい?」
「創太君のお婆様ですか? こんな時間に恐れ入ります」
不安には思いながらも電話に出てみたら、創ちゃんを預かってるっていう女の人だった。
「あ、あの創ちゃんは?」
「今は寝てますよ」
「そうですか」
この人からかけてくるという事は、創ちゃんに何かあったのかと思ったけど、大丈夫みたい。
「お婆様、安心して下さいね。創太君は死にたいなんて事は思ってませんよ」
「え?」
「お腹が空いたといって、ちゃんと自分から食事を要求してますから。本当に死にたいのなら、食べたいとさえ思わないものでしょう?」
「そうですか……よかった……」
口調も優しくて、何処となく安心感がある。
武はこの人に一体何を言われてあんなに怒ったのかしら?
「まだ落ち着いてはいないようですし、もうしばらく私が様子を見ます。それと創太君、家族仲があまり良くないように感じたのですが?」
「そうですね。情けない話ですが、創ちゃんの父である私の息子、武は普段から創ちゃんを怒鳴るように怒っておりますし、その母親の恵子さんも学歴や世間体を気にして、創ちゃんにキツく当たっていましたので……私も庇いきれなくて……」
「そうなんですか」
なんでこんなに話してしまってるんだろう……
いくら安心感があるとはいえ、顔も見たこともない全く知らない人なのに……
「それに創ちゃん、学校でもどうもあまりいい扱いをされていないようで……」
「そのようですね」
「え? 創ちゃんが学校での事を話してくれたんですか?」
いつも学校に行きたくなさそうな創ちゃん……
でもその理由をいくら聞いても私には話してくれない……
「いいえ、特に聞いたわけではないんですよ。ただ、創太君の持ち物、変に傷が多かったので。普通に生活していてつくような傷ではありませんでしたので、学校か家かで何かあるのではと思ったまでです」
「そうでしたか……」
この人には事情を話したのかと思ったけど、そういう訳じゃないみたい。
やっぱり創ちゃん……話してくれないのね……
「大体の事情は分かりました。それでしたら武さんと恵子さんのいない時間帯、この番号に電話をかけて頂けますか? できればお2人には気付かれないようにお願いします」
「えっ! いいんですか?」
「創太君が話すかどうかは別として、ご家族との繋がりがちゃんとあるということを、創太君にも分かってもらいたいですからね。それに、お婆様も心配で眠れないのではありませんか? その方が安心できません?」
私の事まで気遣ってくれる……本当に優しい人ね。
「ありがとうございます」
「では失礼致しますね。お婆様も体調にお気をつけて、ゆっくり休んで下さいね」
全くどんな人なのか分からないけど、この人なら大丈夫って思える謎の安心感のある人だった。
見ず知らずの他人に大切な孫を任せるなんて普通ならあり得ないけど、任せてみようと思った。
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




