隔靴掻痒
創太の祖母視点です。
19時頃、武が帰ってきてくれた。
私は武に今の状況を説明して、創ちゃんの置いていった遺書を渡した。
「ったく、創太の奴……」
遺書をよんだ武が怒ってる。
「まぁ、とりあえず俺が電話してみる」
武はそう言って、創ちゃんの携帯に電話をかけた。
……なかなか出ないみたいね。
やっぱり創ちゃんは出てくれないのかしら……
「青島創太の父です。話は母から聞きました。創太にかわって頂けませんか?」
どうやら電話に出たのは、さっき私にかけてきてくれた女の人のようで、やっぱり創ちゃんは出てくれないみたい。
「そうですか。ではそちらの住所、教えて頂けますか? 迎えに行きますので」
武はただ淡々とそう言った。
さっきの創ちゃんの遺書を読んで怒ってたし、その感情のままだからでしょうけど、とても冷たい感じがする。
そもそもまず、あの女の人に創ちゃんを助けてもらったお礼を言うべきでしょうに……
私も言えてないから人の事を言えないけれど……
「は?」
武は急に驚いたような顔になった。
何を言われたのかしら?
住所は教えれませんとか?
「どういうことですか? ……なんの権限があって、そんなこと」
何かもめてる?
「そういえば、あなたのお名前も聞いていませんでしたね。これはこれは失礼しました。あなたのお名前は?」
武の口調がキツくなってきた。
他人相手だからまだ丁寧な方だけど、相当怒ってるみたい。
「はぁ? いい加減にしていただけませんか? そちらの住所も言わず、名乗りもしない。おまけに息子を預かってるだなんて、まるで誘拐犯ですね。…………なっ!?」
武はあの女の人に誘拐犯だと言った。
恩人に向かって何て事を言うのかと思ったけど、言ったすぐに武も何かを言われたようで驚いていた。
「住所、教えて頂けないようでしたら、警察に通報しますよ」
警察に通報するって……
さすがにそれは……
「おいっ! いい加減にしろっ!」
ついには怒鳴り声で電話をしてる。
もともと怒りっぽかったけど、こんなに怒るなんて……
「はぁ!? って、きられてる……くそっ、なんだあのふざけた女は!」
武は怒ってもう一度、創ちゃんに電話をかけた。
でも今度は誰も出ないみたい。
「ねぇ、武? あの女の人に何て言われたの?」
「俺が誘拐犯だって言ったら、そうかもしれないってよ。だったら警察にかけてやるよ。あの女捕まえて、創太も連れ戻す」
武は怒りのままに警察に電話をかけようとした。
さすがにそんな失礼な事は出来ない。
「ちょっと、武! 創ちゃんを助けてくれた恩人なのよ! それを誘拐犯として警察に言うだなんて……」
「俺は誘拐だと言ったのに、向こうだってそれを肯定してきたんだ! 警察にいうとまで言ったのに"ご自由にどうぞ"だぞっ! ふざけるのも大概にしろっんだ!」
私の制止も聞こうとせず、武は警察に電話をかけてしまった。
「警察ですか? 息子が誘拐されました。助けて下さい」
電話中に変に口を挟む事もできない……
恩人なのに……ごめんなさい……
「名前は青島創太。□□高校に通っている私の息子です。……え? 身代金ですか? そういうものは特に要求されていません。…………はい、はい、はい……は?」
どうしたのかしら?
電話の受け答えをする武の様子が変わってきた。
「いや、誘拐されてるんですよ! うちの創太が! …………そんな、安心できるわけないじゃないですか! ……あ、ちょっと……」
どうやら警察にも電話をきられたようで、武は携帯を持った手を耳から離した。
「警察の人、何て?」
「青島創太さんは誘拐されてはおりません。現在、安全な場所で保護されておりますので、ご安心下さいって……」
「まぁ」
あの電話の女の人……
武が警察に電話する事を予想して、先にかけてたのかしら?
警察にどういうふうに言ったのかは分からないけど、その連絡を警察が信じてるって事は、警察と元々の知り合いなのかしら?
「くそっ! あの女……ふざけやがって!」
私には武とあの女の人の電話内容が聞こえてないから、武が何を言われたのかは分からない。
ただ傍観していただけ。
いつもそう……私は武達と創ちゃんとの事も、庇いきれずにただ見ている事しか出来ない。
最低ね……
「ただいまーって、あなた。今日は残業なかったの? 早かったのね」
私と武が部屋で立ち尽くしていると、恵子さんが帰ってきた。
「恵子……」
「お義母様、お昼に連絡会ったみたいですけど何の用でした?」
そういえば恵子さんに電話したけど、出なかったんだった。
まだ創ちゃんの事を知らない恵子さんは、いつも通り買い物をしてから帰ってきたみたい。
「創太が今日の朝、自殺しようとしたらしくてな……」
「は? なに言ってるの?」
「それでそれを止めた女に誘拐されてんだ」
「どういうことよ?」
「くそっ! もう知るかっ!」
「ちょっと、あなた!?」
急に武が事情を説明し始めたけど、そのまま怒って奥へ行ってしまった。
「お義母様? どういうことですか? 創太は?」
「あー、あのね、恵子さん……創ちゃんは創ちゃんの自殺を止めてくれた方が保護してくれてるのよ……それで家には帰って来ないみたいなの……」
「は? 本当に自殺……? でも保護……? え、それで……じゃあ、もしかして創太は今日学校に行ってないんですか?」
「そうね……」
「なんてこと……そんなの内申点に響くじゃない! ちょっと、すぐに創太に連絡を……」
恵子さんはそう言いながら創ちゃんに電話をかけ始めた……
創ちゃんを助けてくれた方へのお礼どころか、失礼を働く息子……
創ちゃんの無事より内申点だのいう創ちゃんの母……
そしてそれにちゃんと意見もできない私……
創ちゃんはこんなところに帰って来ない方がいい……本当にそう思った。
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




