5 1-5 調査開始
赤い羊視点です。
調査は適当な手下にさせるが、もちろん自分でも調べる。
手下共が絶対に正しいとも限らない。
信用できるのはやはり自分だけだからだ。
俺は昼頃、依頼人達が学校で授業中であろう時間に依頼人の家へと向かった。
表札に刀川とあるその家は、それなりに大きな2階建てで、広い庭のある洋風の家だった。
だがその庭は荒れに荒れており、何年も手入れがされていないようだ。
とてもじゃないが、人が住んでいるようには見えない。
刀川葵はここに1人で住んでいるのか?
家族はいないのだろうか?
「それでねー、あれがねー」
「まぁ、そうなのー?」
刀川家の側で、主婦らしき2人が立ち話をしていた。
こいつ等から情報収集をするとしよう。
「あのー、すみません。地域の防犯パトロールボランティアの者ですが、少し伺ってもよろしいでしょうか?」
「はい? なんでしょうか?」
「そこの刀川さんのお宅なんですが、高校生くらいのお嬢さんが出入りされていますよね? その……あまり家の手入れもされていないように見受けられたので、少し気になりまして」
家そのものはそこまで老朽化もすすんでいないようだが、庭は誰がどう見ても廃墟の庭だ。
普段ならこんな事を聞いてくる他人は不信に思われて当然だが、この家に人が住んでいると知っていて、家族関係を疑わない人間なんていないだろう。
だから今回はこういった聞き込みがしやすいな。
「もしかして、家族関係があまり上手くいっていないのでしょうか?」
俺の質問を受けた主婦達は、互いに顔を見合わせてから少し困った顔をして、
「……お兄さん、ご存じない? 刀川さん達は10年ほど前に土砂崩れに巻き込まれたのよ」
「旦那さんのご実家へ向かう途中でね、あんなに楽しそうに出掛けて行ったのに……」
と、教えてくれた。
自然災害に巻き込まれたとなれば、調べれば分かりそうだな。
「ずっと不在だったんだけどね、1年くらい前に、長女の葵ちゃんだけ帰ってきたの。それで今は1人で住んでいるわ」
「何かバイトをしてるみたいだけれど、帰りもすごく遅くてね……私達も心配してるのよ」
「何のバイトですか?」
「そこまでは分からないわ」
依頼人はバイトをしているらしい。
生活費を自分で稼いでいるのか?
「話しかけても、会釈くらいしかしてくれなくてね」
「あまり聞かれたくないだろうと思って、私達も接し方に悩んでいるのよ……」
「昔はよく笑う、人懐っこい子だったんだけど……」
「本当に、天使みたいに可愛い笑顔だったのにね……」
「そういう事情があったのですね。家族仲に問題がある訳ではないようで良かったです。教えて頂きありがとうございました」
「いえいえ……」
主婦達から入手した情報をもとに更に調査を進め、刀川葵についてはある程度分かってきた。
刀川家は5人家族で、両親と長女葵の下に弟と妹が1人づついる。
そして、12年前に土砂崩れに遭ってしまった。
両親と弟が意識不明の重体らしく、葵と妹の情報は特になかった。
だが葵が現在1人で暮らしている事と、妹は当時1歳だった事から考えて、生きている可能性の方が低いだろう。
葵は1年前に帰って来るまで、父方の祖父母の家で暮らしていたようだ。
こっちに帰って来てからは、あまり笑わない暗い子になったと……まあ、そりゃそうだろう。
殺し屋に同級生を殺して欲しいなんて頼む奴だ。
相当に頭がイカれてやがる。
だが、幼少からの苦労も相当多かったんだろうな。
そんな依頼人に恨まれる九条麻里奈と、愛されている空音。
この2人についても調べるとしよう。
読んでいただきありがとうございます(*^^*)