誘拐犯
創太視点です。
「食器は食洗機に入れとけばいいから」
食べ終わってから、ななさんはそれだけ言ってまたパソコンに戻った。
言われた通り、食器類を戻して僕も漫画に戻る。
…………どれくらい読んだだろう?
ふと時計を見ると、19時を過ぎていた。
こんな、ただ漫画を読んでいるだけで1日を過ごしたのは初めてだ。
本当にこんな事やってていいのかな……
♪♪♪♪♪
漫画を読むのを止めて、少し悩んでいた時、僕の携帯がなった。
画面に表示されているのは父さんの番号だ。
多分父さんが婆ちゃんから事情を聞いてかけてきたんだろう。
でもこの時間に電話できるって……今日は残業しなかったのか?
「はい」
電話に出ようとしない僕を見かねたのか、ななさんが電話に出た。
またスピーカーにして、僕にも聞こえるようにしてくれてる。
「青島創太の父です。話は母から聞きました」
やっぱり父さんだ。
「創太にかわって頂けませんか?」
「少々お待ちくださいね。創太、どうする?」
ななさんが聞いてくれたけど、僕はまた無言で首を振るだけ。
婆ちゃんとの電話も嫌だったのに、父さんなんて論外だ。
「申し訳ございませんが、まだ電話には出たくないようでして」
「そうですか。ではそちらの住所、教えて頂けますか? 迎えに行きますので」
迎えに来られるとか最悪だな……
でもここに閉じ込められてる訳だし、出るためにも来てもらわないといけないし……
ななさんは、どうするんだ?
「お断り致します」
「は?」
「ですから、創太君を迎えに来て頂く必要はありませんので、お断り致します」
「どういうことですか?」
「創太君、帰りたくないようですから」
確かに帰りたくないけど、別にここにいたい訳でもない。
僕は死んで楽になりたかっただけなのに……
「なんの権限があって、そんなこと」
「特になんの権限もございませんが?」
なんだろう?
電話をするななさんが少し楽しそうに見える。
「そういえば、あなたのお名前も聞いていませんでしたね。これはこれは失礼しました。あなたのお名前は?」
父さんの口調が段々きつくなってきた。
思い通りにいかなくてイラついてるんだろう。
「申し訳ありません。名乗れる名を持ち合わせていないもので」
少し冗談っぽく、半笑いのような感じでななさんはそう言った。
まるでバカにしたような喋り方。
イラついてる父さんをもっと怒らせたいみたいだ。
「はぁ? いい加減にしていただけませんか? そちらの住所も言わず、名乗りもしない。おまけに息子を預かってるだなんて、まるで誘拐犯ですね」
「そうかもしれませんね」
「なっ!?」
誘拐犯とまで言われても平気な感じで即答してる。
一応父さんからしたら、息子の自殺を止めてくれた恩人なんだけどな……
この様子じゃ、全然そうは思えないだろうな……
と、当事者のはずの僕は、まるでただの傍観者の立場で2人の会話を聞いていた。
「住所、教えて頂けないようでしたら、警察に通報しますよ」
「ご自由にどうぞ」
ご自由にどうぞって……
父さんを挑発して遊んでるのかも知れないけど、こういうの父さんは本当に通報する人なんだけど……大丈夫か?
僕が当事者なんだし、ななさんは誘拐犯じゃないってちゃんと言うべきなんだろうか?
でも、今のこの2人の間に声を挟む勇気は僕にはない。
「おいっ! いい加減にしろっ!」
「あー、うるさいうるさい。ご用件がそれだけでしたら、さようなら」
最後は父さんの怒鳴り声が響き、それを適当にあしらうななさん。
そしてそのまま電話をきった。
♪♪♪♪♪
また父さんからかかってきた。
今度はななさんも無視してる。
ななさんは鳴り響く僕の携帯を気にする素振りも見せず、自分の携帯を取って電話をかけ始めた。
「あーもし、瀧沢さん? 私です」
瀧沢さんって人と話してるみたいだ。
「もしかしたら警察に、□□高校3年の青島創太君が誘拐されたって通報来るかも知れないんですけど、それ、犯人私なんで」
って、それ……これから父さんがかけるかも知れない電話だ。
ななさんは警察に知り合いがいるのか?
「はい、そういう事で……お願いしますねー」
凄い軽い感じで何かをお願いして、電話をきった。
本当に何者なんだろう?
「あの……ななさん?」
「何?」
「あなたは本当に何者なんですか?」
「何度も言ってるじゃない。忙しいお姉さんだって」
やっぱり答えてくれる気はないようだ。
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




