変な家
創太視点です。
急に閉じ込められた変な家。
漫画を読めとか言ってくる変な人、一応仮名でななさん。
正直、どうしたらいいのか分からないし、他にやることもないので渡された漫画を読んでいる。
「へぇー、創太は□□高校の3年ねー。おっ、生年月日11月11日ね、ゾロ目じゃない」
ななさんは僕の荷物から僕の学生証を見つけたようで、そんなことを呟いていた。
自分の事は教えてくれない癖に、人の個人情報は簡単に知っていく……
別にいいけど。
数分経って、僕の荷物漁りに飽きたのか、ななさんはパソコンをやり始めた。
特に話しかけても来ないし、そのまま僕も漫画を読み続けた。
漫画なんて読んだこともなかったから、最初はよく分からなかったけど、段々と続きは気になってきた。
1巻読み終えた時には自然に2巻に手がのびていて、3巻、4巻へとどんどん読んでいってしまった。
8巻まで読み終えた時、
「それ、まだ続きあるからね」
そう言ってななさんが追加の漫画を持ってきた。
さっきまでは夢中で読んでいたけど、そのななさんの声で少し冷静になれた。
時計を見てみるともう11時30分だった。
今僕、こんなことしてていいのか?
そもそも何でななさんは、僕に漫画を読ませてくるんだ?
「あの、ななさんは僕に学校へ行けとか言わないんですか?」
少し疑問に思っていたことを聞いてみた。
助手にすると言った割には何の仕事もないし、ただ漫画を読まされているだけだし……
普通なら、どうして学校に行かないのか? とか、何で自殺しようとしてたのか? とか、聞いてくるもんじゃないのか?
「行きたくないところには、行かなければいいのよ」
「え?」
「でもね、行かなければいけないところには、行きなさい」
ななさんからの答えはよく分からない事だった。
もともと変な人ではあるけど。
「行かなければいけない所ですか?」
「そう。それは創太が決めるのよ。創太にとって学校は何? 行かなければいけない場所なの?」
「それはそうですよ。親にも行けって言われるし……」
「それは親の意見でしょ。私が聞いているのは創太にとってはどうなのかって事よ」
僕にとってとか言われても……
学校は行きたくない場所でしかないけど……でも、
「僕も学校へは行かないとダメだとは思いますよ。勉強できないし……」
「そんなことはないわ。勉強なんて学校じゃなくったってできる。独学でだって何とでもなるんだから」
「でも、専門の教科書とか……」
「そんなものは図書館で借りれるわ」
「体育とかで計画的に体を鍛えたりとか……」
「それこそ、家でだって出来るわ」
僕の意見を悉く潰してくる。
何で学校に行きたくない僕が、学校に行くべきだと言っていて、行けと言うべきななさんが、行かなくていいみたいな事を言ってるんだろう……
他にも学校へ行くべき理由を考えはしたけど、友達を作るためとか、集団生活で社会性を学ぶためとかしか思い付かなかった。
そんな理由は学校で友達もいなくて、社会性もない僕がななさんに否定される前に否定できてしまう。
「じゃあ、ななさんは学校に行く必要性はないと言うんですか?」
「だから、そうやって私に意見を求めないの。それは創太が自分で決める事なんだって言ったでしょ?」
「そんなの分かんないですよ……」
「なら、今はそんなこと考えてないで、早くその本を読み終わりなさい」
そうしてこの議論は打ち切られた。
僕も漫画の続きが気になってるからいいけど。
漫画をどんどんと読んでいって、ふと時計を見た。
13時……もう昼過ぎだ……昼か……
そういえば、今日はもう飛ぶと決めてたから、部屋に遺書も置いてきたんだった。
こんなところで漫画を読んでる場合じゃない。
早くしないと……
「あの、ななさん。僕こんなことしてる場合じゃないんですけど」
「何かあるの?」
「昼頃、婆ちゃんが部屋の掃除に来てくれるから……」
「あら、優しいお婆様ね」
「それで、机に遺書……置いといたから……そろそろ見ると思うし……だから、早く死んでニュースとかにならないと、婆ちゃんも安心出来ないし……」
「それこそ安心できないでしょっ!」
僕にそう強く言ったななさんは、自分のパソコンを閉じてこっちに来た。
「ほら、電話!」
「は?」
「電話かけて、お婆様に」
「僕、話したくないんですけど」
「私が話してあげるから」
「何を話すんですか?」
「いいから、ほらっ」
滅茶苦茶に急かされて、僕は婆ちゃんの携帯に電話をかけた。
それをななさんがスピーカーに切り替える。
♪♪♪♪♪
呼び出し音が鳴っている。
婆ちゃんは普段あんまり携帯見ないからな……
それにもう掃除を始めてたら、掃除音で聞こえないかも……
僕がそんな事を考えていると、
「はい、創ちゃん? この時間学校じゃないの?」
婆ちゃんの声がした。
ななさんは1度、僕の方を見てから、
「初めまして、青島創太君のお婆様でお間違いないですか?」
と、スピーカーをそのままに、婆ちゃんと話し始めた。
「えっ、ええ……どちら様ですか?」
「現在、創太君をお預かりしているものです」
「はい?」
「失礼ですが、お婆様。今どちらにいらっしゃいますか?」
「今ですか? 家におりますが……?」
「創太君のお部屋へは行かれてませんか?」
「そろそろ、掃除をしに行こうかと思ってましたが?」
「でしたら、今向かっていただいて、机の上をご覧になって頂けますか?」
「はぁ、分かりました」
歩いてる感じの音がする。
携帯を持ったまま、僕の部屋に向かっているんだろう。
「は? 遺書……何これっ! あのっ、あの……」
「あー、ご覧になられました?」
「そ、創ちゃんは?」
「先ほども申しましたが、現在私が預かっております」
「ぶ、無事なんですね……よかった……あ、あの……電話、創ちゃんに代わって頂く事は出来ませんか?」
「少々お待ち下さいね」
婆ちゃんにそう言って、僕の方を見て、
「創太、電話出る?」
と、聞いてきた。
僕は無言で首を振った。
それだけでななさんは僕の方を見るのをやめて、また電話に戻った。
「申し訳ございません。まだ話したくないようでして……」
「そ、そうですか……」
「また何かありましたら、ご連絡致しますので、失礼しますね」
「えっ……はい。すみません、お願いします……」
婆ちゃんへの電話はそうして終わった。
ななさんはその電話を終えると、またパソコンの方に戻って行った。
特に僕に声もかけてこない。
僕も別に言うことないし、漫画を読むのに戻る。
それにしてもななさん……
最初から忙しいお姉さんだとか言ってたから、忙しいんだろうけど、婆ちゃんと平然と話すし、何の説明もなしにいきなり僕の遺書を見つけさせるとか……
確かに説明するよりそれが1番早いだろうけど……
僕は本当に、変な人の変な家に閉じ込められてしまったんだな……
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




