尊敬
綾瀬久実視点です。
「あ、主任。おかえりなさい」
夕方ごろ、紅葉主任が帰ってきました。
「今日は本当にごめんなさい。お昼ご飯、食べられませんでしたよね?」
「いえ、大丈夫ですよ。沢田さんがご無事で何よりです」
私のお昼ご飯も気にしてくれてます。
本当に紅葉主任は優しいです。
というかおそらくですが、紅葉主任の方が何も食べてませんよね。
私はまだ、斉場主任から菓子パンを貰いましたからね。
「お詫びと言ってはなんですが、今日の夜ご飯奢らせて下さいね」
「え、主任の奢りですか? やったー!」
紅葉主任が夜ご飯を奢って下さるそうです!
でも流石に気が引けますね。
上司とはいえ、紅葉主任は高校生ですからね……私は大人です……
「安くて美味しいラーメン屋さんがあるので、そこでお願いします!」
「んーと、どうしてもラーメンがいいですか?」
「え? 主任、どこか行きたいお店がありますか?」
別に、どうしてもラーメンが良いという訳じゃないんです。
普段から、紅葉主任の事を高校生って思ってる訳じゃないですけど、やっぱり高校生に奢ってもらう大人の構図として、ラーメン位ならと奢ってもらってもいいんじゃないかな? と、私の中で何か納得できたので、ラーメンと言っただけです。
「挨拶に行きたいお店があるんですが、1人で行くのも気が引けて、困っていたんです。折角なので、一緒に来ていただけませんか?」
なるほど、ちゃっかり仕事も兼ねていたと。
さすがです。
「そういうことでしたらお付き合いしますよ。どこですか?」
「このお店です」
そう言って、紅葉主任は自分の携帯画面を見せてくれました。
そこにはなんともビックリな、高級和食のお店が……
私の、高校生に奢ってもらう大人の構図には欠片も合わないお店でした。
「主任、ここを奢って頂くのは流石に気が引けます……」
「そうおっしゃらずに。私の私情に付き合わすのですから、気にしないで下さい」
「私情ですか?」
「実は、今度姉が私に彼氏を紹介したいと言ってまして、その会う予定のお店がここなんです。なので、先に挨拶しておきたいと思ってまして」
「なるほど……」
つっ込みどころ満載ですね。
まず店の金額……
次に姉の彼氏の紹介……
そして店への挨拶……
つまり、そのお店で会うとセッティングしたのは紅葉主任という事ですよね。
でなければ、紅葉主任が挨拶に行く必要性はありませんからね。
「ですから久実さんは私の挨拶にただ付き合っただけと、思って頂ければ」
なんていうんですかね。
普通の高校生は姉の彼氏との挨拶の為に、高級和食店に挨拶には行きませんよ……
普通の高校生じゃない事は前々から承知してましたが。
もう、高校生に奢ってもらうとか考えてたのもバカらしくなりましたね。
「分かりました。では奢って下さい」
「ありがとうございます」
なんで紅葉主任がお礼いってるんでしょうね、ほんとに。
私も開き直っていきましょう。
これは高校生に奢ってもらう大人の構図ではありません。
尊敬する上司に奢ってもらう部下の構図ですっ!
「それにしても、今日は本当にありがとうございました。久実さんのお陰で助かりました」
「いえいえ」
そんなこと本当にいいのに……
私は、尊敬する紅葉主任が私に頼って下さった事が、何よりも嬉しかったんですから!
読んでいただきありがとうございます(*^^*)
episode2は完結です。




