急転直下
由佳さん視点です。
私と陸は、急に知らない2人組の男達に無理やり車に乗せられた。
そのあとすぐに気絶させられてしまい、気が付いたら薄暗い部屋にいた。
私も陸も手はロープで縛られ、壁のパイプと繋がれていて、口にはガムテープがされていた。
足は動けるけれど、男達がずっとこっちを見ているので動けなかった。
怖くて、何がなんだかわからないけど、陸だけは絶対に守らないと……
私が起きたことに気が付いた男達はスピーカーにした携帯を私の前においてきて、私の口のガムテープをとった。
結構痛かったけど、電話からは浩一さんの声。
何も分からないこの現状で、浩一さんの声を聞けた事が本当に安心できた。
浩一さんの話だと、私と陸は誘拐されたみたい。
身代金は5千万円。
浩一さんはお金は何とか用意してもらえたって言ってたけど、私達にもお義母さんにもそんなお金はない……
本当に大丈夫なのかしら……
そもそも、なんで……私達なの?
あれからどれくらい時間がたったんだろう……?
男1人はずっと電話、もう1人は私達を睨んでくる……
時計もないし、どれだけ時間がたったのか分からないけど、凄く長い時間に思えた。
陸が目を覚ました。
浩一さんからの電話のあと、私の口にはもう一度ガムテープが貼られてしまったので陸に事情も話せない。
できるだけ陸の近くに行くけど、手が繋がれていて限界がある。
陸が震えてる……ごめんね、陸……
本当は抱き締めてあげたいけど、手が使えない。
誰か……誰でもいいから、助けて!
急に男達はネズミに騒ぎだした。
ネズミを見に行った1人は帰って来なくなり、もう1人も急に倒れた。
そして何処からか現れた高校生くらいの男の子が、さっきの男と同じ声で電話に出ながら、スケッチブックを見せてくれた。
助けに来ました。
ですが、まだ旦那さんが捕まっていますので、あなた方も捕まっていると犯人に思わせたいです。
声を出さず、音を立てず、静かにあのお姉さんのところに行って下さい。
スケッチブックにはそう書いてあった。
助けに……来てくれた?
浩一さんも捕まってるんだ……
扉の方で手を振ってる女の子がいた。
男の子と同じ年頃の女の子……
あの子の所へ行けばいいのかな?
男の子が手のロープを外してくれたので、私は陸を抱えて手を振ってくれている女の子の所に向かった。
「こっちですよ」
小声で話ながら案内してくれる。
この女の子は、大きな楽器とかが入っていそうな鞄を背負っていて、ペンギン柄のパーカーを着ている。
頭がペンギンになっているフードも被っているので、まるでペンギンの着ぐるみのようで、とても可愛い。
さっきまで捕まってたとか忘れさせてくれるような、ほのぼのとした感じだった。
「ここならもう、喋っても大丈夫ですよ。ちょっと痛いかもですが、ガムテープとりましょうか?」
私は陸を抱えているので手が使えない。
女の子が私の口のガムテープを取ってくれた。
「いたっ……いたい……」
私のガムテープを取っているのを見て、取っていいと思ったようで、陸も自分で自分のガムテープを取っていた。
「陸、大丈夫?」
「おかーさん……ぼく、あるける……」
「そう? 偉いわね」
陸は少し泣きそうになりながらも、自分で歩けると言ってくれた。
もう5歳の陸は結構重い……
ずっと抱いていたので、少し疲れた……
「口回り赤いですね……今、コレしかなくて申し訳ないんですが、冷やすのに使ってください」
「ありがとうございます」
「陸、ほら冷やして」
「うん……」
女の子が新品の冷たいペットボトルのお茶をくれたので、陸の口回りを冷やしておく。
赤くなってしまっていて、可哀想だ……
痛かっただろうに……
陸の手を引いて、少しだけ会話をしつつさらに進んでいくと、さっきまで私達を睨んでいた男が倒れていた。
「あ、ちょっとすみません。ネズミ取り返さないと……」
女の子は倒れてる男の手に握られていた、ネズミのおもちゃをとっていた……
「あの……死んでるんですか?」
「寝てるだけですよ。ついでなんで、縛っておきましょうか」
「あ、コレ使いますか?」
「ありがとうございます」
私達がさっきまで縛られていたロープを、私が持ってきてしまっていたので、それを使ってもらって寝てる男を縛った。
そして、女の子はネズミのおもちゃも回収してた。
というか、そもそもこの子達は何者なんだろう?
「いいなー。ぼくもそれほしいー」
急に陸がネズミのおもちゃを指差して言った。
「ダーメ。これは私のネズミだから」
「えー」
「こら、陸。これはお姉さんのだから、ダメでしょ」
「うぅ」
「そうそう、これは私のなのー」
わざわざ回収してるんだし、きっと大切なネズミなんだろう。
「ったく、お前は何子供いじめてんだよっ」
私がそう思っていると、背後から急に声がした。
振り返るとさっきの男の子が歩いてきた。
さっきとは違う声……
やっぱりさっきのは、あの男と同じ声を出していたのかな?
「ほら、見とけ……ここに1枚のコインがあるだろ?」
そう言って男の子は陸の目の前にコインを見せた。
「これをこうすると……ほらなくなった」
「すごい!」
マジックだ。
陸も喜んでる。
「で、これをこうするとまたコインが出てくる」
「おー!」
「でもこのコイン、さっきのコインより大きくなってるだろ?」
「うんっ」
「だから、またこうすると消えて、こうするとさっきより大きいのに変わるんだよ」
「おぉー!」
「で、これを繰り返すと……ほらっ、金メダルだぜ!」
「すごーい」
「これは君にプレゼントだ。怖かったのに、よく頑張ったな」
「うんっ、ありがとーう」
「あの、ありがとうございます」
男の子は陸に金メダルをくれた。
「犯人との電話は?」
「向こうからとりあえず切るってさ」
「そう」
「あの、浩一さ……主人は大丈夫なんでしょうか?」
「大丈夫ですよ。帰る頃に丁度解決してると思います。安心してくださいね」
男の子はそう言ってくれた。
「とりあえず俺は警察来るまでここにいるから、お前は2人をよろしくな」
「りょーかい」
女の子に案内されるまま広いところに出ると、丁度車がたくさん来た。
「お疲れ様です。犯人は?」
「中」
「了解です! 後日、事情聴取お願いします」
「中のくー君に言っといて」
「はい、失礼します」
若い男の人が女の子に挨拶をして、私達が捕まっていた方へ向かって行った。
「じゃ、帰りましょうか。この車に乗ってくださいね」
「あの? さっきのは?」
「あぁ、刑事さんですよ」
陸と案内された車に乗る。
運転手さんが車のドアを開けてくれた。
すごいセレブ感……
それにしてもさっきのが刑事さん?
ってことは、この子達も?
車内で質問してみた。
「あの、あなた方も刑事さん? ですか?」
「いいえ、私達はスノーフレーク。何でも屋です」
スノーフレークって……
この間赤い羊捕まえたとかいう、あの?
あと、お義母さんの話し相手をしてるとかっていう……
誰かが……お義母さんか、浩一さんがスノーフレークに私達の救出依頼をした?
「あの、おいくらくらいですか?」
「何がですか?」
「私達の救出料は?」
「そんなのないですよ」
「ないんですか?」
「逆に何故あると? そんなのにお金もらうわけないじゃないですか」
少し笑いながら言われてしまった……
本当になくていいんだ……
♪♪♪♪♪
女の子の携帯がなった。
「はーい、……うん。……分かったー。あ、仕事になりました。ごめんなさい、私降ります。あとお願いしますね」
「かしこまりました」
運転手さんと話してる。
「すみません、私はここで離れます」
「あ、あの……ありがとうございましたっ」
「ペンギンおねぇちゃん、ありがとー!」
「いえいえ、どういたしまして」
女の子はまた大きな鞄を抱えて降りていった。
お義母さんの家に着くと、丁度犯人が警察に連行されていくところだった。
皆無事で本当に良かった。
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




