看破
浩一さん視点です。
母さんとスノーフレークの社員さんは、今回の件についてずっと話している。
スノーフレークの社員、紅葉さん……
最初は、話し相手という名目で、母さんからお金をもらってる人だと俺も思っていたけど、さっき母さんもお金は渡してない、本当の友人だって言ってたし、この誘拐から俺たち全員を助けてくれた。
本当に感謝してもしきれない。
「まぁでも、あいつ等は素人ですよ。今回の誘拐も思いつきでしょうね」
「え? 素人?」
「はい。靴とか食器乾燥機とか、家に来た時点で気づくべきです。それに計画が大分杜撰ですね。その場の思いつきで計画を変えていたんでしょうね」
確かにそんな感じだった。
母さんがスノーフレークと知り合いだったから、家をターゲットにしたとは言っていたけど、紅葉さんが社長の奏海さんと友人だとは知らなかったみたいで、それを聞いて喜んでいたし……
「なので余計に警戒していました。計画的じゃない犯人というのは、いつどこで計画を変えるかも分かりませんし、素人ならなおさらに、急に何をするか分かりませんからね」
「そうね……」
「だからあの大きな音が2階からした時は、流石に焦りましたよ」
「あぁ、あれは私もビックリしたわ」
犯人が箱を床に叩きつけた時か。
急に何をするかと焦りはしたけど、あの箱は大して大切な物も入っていかなったから良かった。
「本当に浩一に何かあったかと思ったわ」
「俺は大丈夫だったよ。ありがとう、母さん」
「本当にご無事で良かったです。あのタイミングで人質に何かをする事は、犯人にとっても得策ではありませんからね。おそらく大丈夫だろうとは思いましたが、これだけ証拠を残す素人犯人ですから。結構心配してたんですよ」
「ありがとうございます」
紅葉さんは俺の方を見て、本当にどこも怪我がなくて良かったと言ってくれた。
あの時に俺が何かされる可能性は低かっただろうけど、あの犯人は感情的になりやすい感じだったからな。
だから余計に心配してくれていたんだろう。
「あれは私が、携帯で紅葉ちゃんに伝えようとしてしまったから、いけなかったのよね……」
「犯人の状況も分からなかったので、美代子さんが2階に1人で行くと仰った時は、どうしようかと思いましたよ。でもそこまでバカな犯人ではなかったようで安心しました。心配だったので、2階にはついて行きましたけどね」
「えっ!? ついてきてたの?」
ついてきてたのか……
全然気がつかなかった。
「はい、勿論です。美代子さんに何かあってはと思いましたし、1階に仕掛けられたカメラからは見えないことも、計算できましたから」
「カメラにも気が付いていたのね」
「はい。あんな目立つところにあるんですから。勿論目立たないところも探しましたが、カメラはあの1台のみでしたから。安上がりな犯行ですね」
紅葉さんは少し笑いながらそう言った。
カメラも、仕掛けられていることに気が付いていただけじゃなく、カメラの死角まで計算していたって事なんだよな。
だから2階についてきても大丈夫だと判断したわけか。
「でもついてきてたって事は、最初から2階に犯人と浩一がいるのは分かってたの? ああ、靴から?」
「そうですね。カメラが仕掛けてあるということは、誰かがその映像を見ながら美代子さんに指示を出していたと考えられます。でも美代子さんは特に連絡機器は持っていませんでした。先ほどの玄関の靴と合わせて考えると、犯人と息子さんは現在室内に居て、おそらく息子さんを人質にしながら指示を出している、ということになりますよね」
そこまで分かった上でついてきてたのか。
「あとの問題はお孫さんはどこに行ったのか? おそらく出かけたところで誘拐されてしまったのではないか? そう考えるのは当然の事です。となればお孫さんと一緒に出掛けた誰かも、共に誘拐されていることになります」
「そうね」
「でも分からない事も多いのに推測だけで行動はできませんからね」
「分からない事?」
「犯人の数とか、誘拐されたのは何人なのかとかがまだ正確には分かってはいませんでした。それが分からない以上、下手に動けませんから。少し様子を伺ってたんです。なのですぐにお助けできずに申し訳ありませんでした」
「そんなっ、いいのよ。紅葉ちゃんが謝る事なんてないわ!」
紅葉さんは助けるのが遅くなったと謝罪してくれたけど、とんでもない。
全員が確実に無事に助かるようにしてくれていたって事は、もう十分に分かってる。
でも紅葉さんはほぼここにいたから、由佳と陸を助けるのは不可能だよな?
そもそも、2人の居場所だって分からないはずじゃないか。
「由佳と陸はどうやって助けてくれたんですか?」
「あのねー、マジックおにぃちゃんとペンギンおねぇちゃんがきてくれたのー」
母さんと紅葉さんの邪魔をしないようにと、ずっと静かにしていた陸が、そう言った。
マジックお兄ちゃんとペンギンお姉ちゃんってなんだろう?
「まぁ、その辺の事はスノーフレークの企業秘密という事で、気にしないで頂けると助かります」
「分かりました」
本当に凄い会社なんだな、スノーフレーク……
まさか母さんが、そんな凄い人と知り合いだったとは……
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




