おかしな事
美代子さん視点です。
犯人は警察に連行されて行った。
陸君も由佳ちゃんも、もちろん浩一も私もみんな無事。
「瀧沢さん。急にすみませんでした」
「いいわ。この間助けてもらったし、あなた達も忙しいでしょう」
「本当にありがとうございました」
紅葉ちゃんは警察の方に挨拶をしてから、私達の方に戻ってきてくれた。
「紅葉ちゃん! その、本当にありがとうね!」
「ありがとうございます」
私も浩一もお礼を言う。
「いえいえ、皆さんご無事で何よりです」
「でもどうして誘拐されてるって分かったの? さっきおかしな事が沢山あったって言ってたけど?」
さっき犯人も言っていたけど、私は一切誘拐だなんて言ってないし、おかしな事があったとしても、どうして誘拐だと気がつけたのかしら?
「そうですね。まず、玄関の靴です。美代子さんの靴と、息子さんの靴と思われる男物の靴、そしてあまり綺麗とは言い難いスニーカーが玄関にありました」
「ええ」
由佳ちゃんと陸君は買い物に出ていたから、玄関には私と浩一と犯人の靴があったはず。
「美代子さんは普段から、必要ない靴は出していませんよね。つまり、その2つの靴の持ち主は家の中にいるということになりますよね? ですが、美代子さんは息子さんは出掛けていて居ないとおっしゃいました」
「そうね? でもそれなら浩一は家にいるけど、恥ずかしくて出てこれないのかもしれないでしょ?」
私は浩一が起業に失敗してしまったと、嘘をついていたんだから……
「ええ、靴だけならそうですね。では次ですが、このリビングのラグです」
「ラグ? 何かおかしかった?」
「毛並みが逆立ってる箇所がありました。何か車のおもちゃとかで遊んだような跡とか……」
紅葉ちゃんはラグを指差しながら教えてくれた。
確かに毛並みが変な方向へと流れてる。
さっきまで陸君が遊んでいたから。
「陸君が遊んだ跡かしらね」
「おそらくそうでしょうね。普段から綺麗好きの美代子さんが、何日もあのままを放っておいたとも思えませんし、お孫さんが来たと考えるべきでしょう。でも美代子さんは、お孫さんは来ていないとおっしゃった」
「あぁ……」
でも陸君の場合は靴もなかった訳だし、ラグの跡だけで陸君が来ていたと決めつけるのは早くないかしら?
ラグの跡も少し変に毛並みが逆立ったり、乗り物のおもちゃの跡っぽくも見えるけど、確実にそうだとはいえないような跡だし……
「でもそんな跡だけじゃ確実に陸君が来たとも言えないんじゃない?」
「お孫さんが間違いなく来ていたという証拠は、キッチンにありました。先ほどまでは美代子さんも大分動揺されて、気が気じゃなかったと思いますが、今ならどうですか? 落ち着いて考えてみてください」
キッチンに陸君達が来た証拠?
ケーキかしら? いいえ、違うわね。
ケーキがあったからって、来た証拠にはならないわ……
お昼ご飯は残さず食べてくれたから、あまりはなかったし……
そういえば、お昼ご飯といえば……
「食器ね……お昼ご飯で使った食器が、食器乾燥機の中に入ってたわね。それも子供用の食器もあったはずだわ」
「そうです。まぁ、それを確認したくて紅茶を入れるのを手伝うという名目でキッチンに行ったのですが」
「そう……それで陸君が来たことを確信したのね」
「はい。お孫さんが遊びに来ていたのに、それを隠す理由なんて、そう多くはありませんからね」
もともと紅葉ちゃんには、今日が陸君の遊びに来る日だということは言ってあった。
とはいえ、私の嘘もちゃんと辻褄があっていたはず……
私の話が下手でおかしかったとしても、動揺から上手く話せてないだけだと思われても仕方ない。
でもそれを私に確認することなく、室内からおかしな事を見つけて誘拐だと気付いてくれた。
しかもそのおかしな事も、靴にラグに食器……紅葉ちゃんが来てすぐに気が付く事ばかり。
紅葉ちゃんは本当に最初から気付いてくれていたのね。
読んで頂きありがとうございます(*^^*)




