忘れ物
犯人視点です。
玄関のチャイムがなり、婆さんは降りていった。
「お待たせしました~」
どうやらスーツ学生が帰ってきたようだ。
思ったより早かったな。
「どうぞ、こちらです」
俺がカメラを仕掛けたリビングのテーブルの上にケースを置き、婆さんに金を確認させている。
もちろん大量の金。
こんなもんをこんな短時間で用意出来るとは……
さすがはスノーフレークだ。
「本当に、本当にありがとうね、紅葉ちゃん。必ず、必ずお返しするから」
「はい。息子さんにすぐに連絡してあげてください」
「え、ええ……」
後はどうやってスーツ学生を帰らせるかだが……
多分、旦那に会いたいとか言うだろう。
今2階から旦那が出て来たらおかしいし、ベランダから飛び降りさせて、玄関の方までまわらせるしかないか……
でも2階とはいえまぁまぁ高さあるし、飛び降りた所を誰かに見られでもしたらな……
「あと、ごめんなさい美代子さん……本当はちゃんと息子さんに挨拶したかったんですが、このあと仕事に戻らないといけなくなりまして……」
「えっ? そ、そうなの?」
「はい、なので申し訳ありませんが、私はここで失礼しますね。息子さんにもよろしくお伝え下さい」
「ええ……」
俺がどうやって旦那と挨拶させるかを考えていたら、スーツ学生が帰ると言い出した。
最高だな! 俺達の計画が順調にすすむぜ!
「では、またお話沢山しましょうね」
「本当にありがとうね」
スーツ学生は急ぎながら帰って行った。
俺は2階のベランダから、スーツ学生が出ていったのをしっかり確認してから、1階に降りた。
机の上のケース、そして大量の金。
ここまで俺の計画通り、順調にいくとはな。
後は、あいつ等が俺を迎えに来て、人質の居場所をこいつ等に教えれば完璧だ。
けど、この金……本物だよな?
一応ちゃんと確認しとかないとな。
もしかして、スノーフレークに何か仕組まれてる金かも知れねぇし……
さすがにこの状況で偽札渡してくるとも思えねぇけど、万が一って事もあるしな。
俺が金の確認をしていると、
「か、金はもういいだろっ! 早く由佳と陸を返してくれっ!」
旦那の方がわめきだした。
ったく、うるせーな。
大体なんでこの旦那はこんなに強気なんだ?
別に人質だって女と子供で十分だし、この旦那うるせぇし、ここで殺っちまおうか……
でもまぁいいか。
ここで撃つと銃声とか響くかもだし、死人が出るとさすがに警察やスノーフレークも今回の件に感づいちまう。
こいつ等はまた使えるんだし、俺もここに長居したい訳じゃないからな。
あいつ等に連絡するか……
そう思い、携帯を手に取った時だった。
急に、リビングの扉が開いた。
ガチャ
「すみません美代子さん、携帯忘れたみたいでー」
「紅葉ちゃん!」
忘れ物をしたスーツ学生が帰って来やがった。
見ると、リビングの椅子の上に携帯が置いてある。
くっそ、もっと早くに気がつけば……
どうする……どうしたら……
「あれ? もしかして息子さんですか?」
「え、あーはい。えっと……この度はありがとうございました。ご迷惑お掛けして、誠に申し訳ございませんっ!」
旦那が深々と頭を下げた。
さすがに状況が分かっているからか、素直に自分のせいで必要になった金だという演技をしている。
「いえいえー、ここをまたスタート地点としてこれから頑張って下さいね。それで、そちらは?」
スーツ学生が俺について聞いてきた。
幸いな事に、俺は今拳銃も出していない。
さっき旦那を殺そうかとか考えたが、しなくて良かった。
この状態なら、俺が誘拐犯には見えないだろう。
上手く誤魔化せれば……
「あー、彼はその、私の部下で……今回協力してくれてまして……」
「そうなんですよー。よろしくお願いします」
俺も合わせて適当に挨拶をする。
旦那のしどろもどろ感が凄いが、どうだ……?
「そうなんですか。頑張って下さいね」
スーツ学生は納得したようで俺の方を向いて笑った。
どうやら上手く誤魔化せたみたいだ。
良かった。
「ん? あら、肩にゴミがついてますよ」
そう言って、スーツ学生は俺と旦那の間に割り込むように入ってきた。
そしていきなり、
「とつげきー!」
と言った。
すると訳が分からないうちに、玄関からベランダからと人が入ってきて、気がついたら俺は囲まれていた。
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