唯々諾々
美代子さん視点です。
紅葉ちゃんの家族や、実家の話をして結構時間が経った。
時計を確認すると、もうすぐ16時。
もう1時間近く話していた。
♪♪♪♪♪
丁度話に一区切りついたところで、紅葉ちゃんの携帯がなった。
「あ、すみません。ちょっと失礼しますね」
私にそう断って、紅葉ちゃんは電話に出た。
奏海さんからかしら?
お金を用意してくれたんだといいけれど……
「奏海、お金準備してくれた? ……そう、ありがとう。私が取りに行った方がいい?」
どうやらお金は用意してもらえたみたい。
でもどうやって持ってきてくれるのかしら?
それに犯人達も、どうやって持って帰るつもり?
「んー、なら私が取りに行くよ」
えっ、紅葉ちゃん行っちゃうの?
今のって、そういう事よね?
「じゃあ、そういう事でよろしくね。……すみません美代子さん。お金の準備できたみたいなんですけど、あっちも忙しいみたいなので、私が取りに行ってきますね」
「ごめんなさいね……」
「大丈夫ですよ。もう少しお待ちください。30分くらいで戻ってきますので」
「ありがとう」
30分か……短いようで長い時間ね。
また犯人と私達だけになってしまうわね……
紅葉ちゃんが居てくれてるだけで大分心強かったから、紅葉ちゃんが行っちゃうと分かったら急に不安が……
「大丈夫ですか?」
「ええ……」
「できるだけ、すぐに戻って来ますから」
「本当にごめんなさい……」
「そんなに気に病まないで下さい。では、急いで行ってきますね」
紅葉ちゃんは急ぎながら出ていってしまった。
どうしようかしら……
とりあえず、2階の浩一が心配だわ。
犯人は怖いけど、上に行きましょう。
「あ、あの……」
上に上がると犯人の男は電話していた。
浩一も無事そうで良かった。
「婆さんが上がってきたから一旦電話切るぞ」
そう言って電話をきり、私の方に来た。
「いいか、俺等の事は警察にもスノーフレークにも話すなよ! 人質が帰ってきたからって警察に話したりしたら、また来るからな! その時は……」
「分かりました。絶対に言いませんから……」
この犯人は顔を隠したりとか何もしてない。
皆が無事に帰ってきてくれたら、警察や紅葉ちゃんにちゃんと事情を話して、犯人の特徴を言えば、きっと警察が捕まえてくれるはず……
浩一も多分それを考えてる……
でも、もし警察が捕まえれなかったら?
また来るって……
本当にどうしたらいいのかしら……
冷静になろうとしてもなかなか考えられない……
とにかく今は、皆が無事に帰ってきてくれる事だけ考えましょう。
警察に話すとかはまたあとで考えて……
「おい、聞いてんのか?」
「は、はい……もちろんです」
「まぁ、別にお前等だってそんな困ることないだろ。人質もちゃんと戻ってくるんだし、金だってスノーフレークの奴が、返すのはいつでもいいって言ってんだからな」
「勝手なことばかり言うなっ!」
「お前はいい加減自分も人質だって自覚しろよ!」
無茶苦茶を言う犯人に、浩一も我慢の限界みたい……
「こ、浩一も落ち着いて……」
「あ……ごめん、母さん……」
あの人もそうだったけど、浩一もこういう事は絶対に許せない、正義感の強い子だから……
それでもやっぱり、今は皆の命の方が大切だもの。
犯人に協力しているようで嫌だけど、皆を無事に返してもらうためにも、紅葉ちゃんに気が付かれないように、お金を貸してもらわなくちゃいけないわ。
「ったく、それからな、アイツが金持ってきたらなるべく早く帰らせろよ」
「そんなっ、それは流石に無理です……」
「まぁ、そうだろうな。それをなんとか考えときな」
お金を持ってきてもらって、後はもう帰ってもいいなんて……
そんなことは言えない。
いっそのこと、浩一が人見知りだからとか言おうかしら?
流石におかしいわよね……
皆が無事に帰って来るまでは、紅葉ちゃんにも誘拐を気付かれる訳にもいかないし……
どうしたらいいのか考えていたら、
ピンポーン
と、玄関のチャイムがなった。
急いで2階から降りて見に行くと、紅葉ちゃんがもう帰ってきてくれていた。
「お待たせしました~」
相当急いで行ってくれたんでしょうね。
紅葉ちゃんは30分と経たず帰ってきてくれた。
まだ15分位しか経ってないんじゃないかしら?
「どうぞ、こちらです」
紅葉ちゃんは奥のリビングにまで来てから、机の上にケースを置いてくれた。
中にはお金が沢山入っていた。
ここなら犯人にも見えているでしょう。
「本当に、本当にありがとうね、紅葉ちゃん。必ず、必ずお返しするから」
「はい。息子さんにすぐに連絡してあげてください」
「え、ええ……」
でもどうしましょうか……
紅葉ちゃんが浩一に挨拶したいっていうのは当たり前よね……
私は今、どうするべきなのかしら……
「あと、ごめんなさい美代子さん……本当はちゃんと息子さんに挨拶したかったんですが、このあと仕事に戻らないといけなくなりまして……」
「えっ? そ、そうなの?」
「はい、なので申し訳ありませんが、私はここで失礼しますね。息子さんにもよろしくお伝え下さい」
「ええ……」
「では、またお話沢山しましょうね」
「本当にありがとうね」
紅葉ちゃんはそう言うと、また急いで出ていってしまった。
あんなに、どうやって紅葉ちゃんに帰ってもらうかを考えたのに、全然必要なかった。
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




