3 1-3 愛する家族
会社員視点です。
私はただの会社員。
何処にでもいるような、普通の会社員だ。
課長という役職に就き、部下達とも良好な関係を築きながら、誇りを持って仕事をしている。
そんな私を支えてくれる妻。
そして今年から高校生になった可愛い娘。
私の大切な宝物達だ。
あまり贅沢な暮らしではなかったが、何気無い日常を幸せに感じていた。
だが、その幸せな日々は簡単に壊れてしまった。
1通の手紙によって……
『この不倫を愛する家族に知られたくなければ、次の指示に従って下さい。
○○高校2年九条麻里奈について調査し、結果を報告する事。
逆らえば不倫は家族に知られ、家族を悲しませる事となります。
また、その際には私が悲しみから解放してさしあげます。 赤い羊』
手紙にはこう書いてあり、2枚の写真が同封されていた。
1枚は娘と同じ高校の制服を着た女の子の写真。
そしてもう1枚は、私が若い女性とホテルに入って行く写真だった。
これは、最近巷を騒がせている赤い羊という殺人鬼からの手紙だとすぐに分かった。
赤い羊は人の弱味につけこんで手下を増やすとニュースで言っていたからだ。
とはいえ、私はこんな犯罪に協力する気などなかった。
そもそもこの女性は観光客で、酒の飲み過ぎで気分が悪くなっていたところを私が偶然通りかかり、彼女が泊まっていたホテルまで肩を貸しただけだ。
ホテルのロビーでフロントマンに彼女を託して私はホテルを出ているし、その話は妻にもしている。
だからこの写真を見られたところで、妻も娘も私を信じてくれる。
私は赤い羊からの脅迫には断固として屈しない。
そう決意して、警察にこの事を伝えようと電話に手を伸ばしたところで、急に冷静になることが出来た。
"また、その際には私が悲しみから解放してさしあげます"
赤い羊の手紙の最後の一文。
家族を悲しみから解放?
……どうやって?
私はもう一度手紙を読み返した。
この不倫を愛する家族に知られたくなければ次の指示に従って下さい。
この最初の一文……
本当に不倫で脅したいのなら、ここに愛するという言葉は必要なのではないか?
不倫の時点で、家族への愛は薄れていると普通は思うはずだ。
それなのにここにこの単語を敢えて入れたのは、私にとって家族が何よりも大切だと分かっていたからだ。
それはつまり、赤い羊はこの写真を撮った後に私の事を調べ上げ、私が利用出来るかを判断しているという事になる。
わざわざ不倫の証拠でもない写真を送ってきたのは、私が安易に警察に相談するかどうかを見極める為……
だとするならば、今も私は赤い羊に監視されているのかもしれない……
私には、この脅迫に従う以外の道はなかった……
迂闊な行動をすれば、私の大切な家族達が殺されてしまうのだから……
読んでいただきありがとうございます(*^^*)