電話
犯人視点です。
カメラを仕掛けたテーブルに戻ってきてすぐ、
「そういえば、これよ。最近の陸君の写真」
と、婆さんが自分の携帯をスーツ学生に渡した。
もちろんカメラに画面を見せながらだ。
ちゃんと分かってるじゃないか。
「わ~、可愛いですね。こうして並べてみると、成長がよく分かりますね」
「そうなのよ」
リビングの別の写真と比べてるのか、スーツ学生は婆さんが喜びそうな事を言う。
流石は普段から年寄りとのお話なんて仕事をしてるだけはある。
「こっちの写真はまだ陸君が生まれる前ですか?」
「ええ、これはあの人の生前ね。まだ陸君が生まれる前で、浩一と由佳ちゃんが結婚したときの写真よ」
「じゃあ、この方が息子さん?」
「ええ、こっちが由佳ちゃん。由佳ちゃんもね本当に浩一には勿体ないくらい良い子なのよ」
他人の家族の事なんてどうでもいいだろうに。
スーツ学生はまるで本当に興味ありげに、婆さんとの会話を広げていた。
「はぁー」
「美代子さん?」
「あぁ、ごめんなさいね」
急に婆さんがため息をつきやがった。
まぁでも、丁度俺らが捕まえてる家族の話をしてたかな。
泣くとかじゃないだけましか。
「大丈夫ですよ。その借金を返したらまたやり直せばいいんですよ。スノーフレークに返すのはいつでも大丈夫ですから。そんなに気を落とさないで下さい」
「え、えぇ……ありがとう紅葉ちゃん」
変なタイミングでのため息だったし、怪しまれたかと思ったが、スーツ学生は借金返済を気にしてのため息だと思ったようで、婆さんを励ましている。
スノーフレークに返すのはいつでもいいらしい。
やっぱり元々金持ちが道楽で始めた会社だからだろう。
5千万程度の金が減る事なんて、何とも思ってないんだろうな。
スノーフレークの普通の社員とかなら違ったかも知れねぇが、このスーツ学生は社長の桜野奏美の友人みたいだし。
金持ちもその友人も、金銭感覚狂ってるんだろう。
「あっ! 15時になりましたね。ちょっと電話してみますね」
そう言って、スーツ学生は電話をかけ始めた。
もうそんな時間になってたか。
さて、ここからが成功か失敗かの瀬戸際だ。
「ああ、神園さん。四之宮です。奏海に繋いでもらえますか?」
スーツ学生は電話相手にそう言った。
神園さん? 誰だ? 友人なのに社長に直接かけるんじゃないんだな。
いや、神園って聞いたことがあるな……
たしか前にテレビで外国のデカい執事の大会で、10連覇して殿堂入りした凄腕執事が日本人で、桜野家の執事をしてるって言ってたな……
それが神園だったはずだ。
友人でも、社長と電話するのには執事を通さないたいけないのか。
面倒くせぇな、金持ちって。
あーあれか、電話に代わりに出て、ご主人様のところまで受話器を持ってくるのも、執事の仕事って事か。
でも、芸能人とかもマネージャーが携帯に出たりするって聞いたことあるし、そういうもんなのかもしれねぇな。
俺等とは無縁の世界だ。
「奏海? ごめん、ちょっとお願いがあって……ちょっと、5千万円ほど貸してほしいんだよね」
おっ! 奏海に変わったようだ。
スーツ学生は友達に本でも借りるような感じで、5千万貸して欲しいと言った。
そんなんで貸してくれるのか?
せめて何に使いたいとか言えよ。
「それは、私もそうだとは思うけど……うん、ごめん……」
なんだ? 無理とでも言われたか?
少し雲行きが怪しくなってきたな……
「うん。……そうだね、早い方がいいっていうか、今すぐだね。……うん、今度ちゃんと話すよ。……はーい」
何話してんのか滅茶苦茶気になる。
桜野奏海の声が聞こえればいいのにな。
桜野奏海と言えば、メディア嫌いで有名で、ずっと人前に姿を現さなかったのに、この間の赤い羊を捕まえた件でついにニュースに顔が流れた。
でもまだ、顔が公表されただけでどんな奴なのかは結局、なにも分かってない。
今ここであの桜野奏海と電話してる奴を知れるなんて、本当にラッキーだ。
スーツ学生の話し方で、桜野奏海がどんな奴か分かればいいが……
スノーフレークがどんな会社か分かってれば、また別の作戦で金をとることもできるからな。
「りょーかーい。待ってるね、また連絡して」
終始、友人から本を借りるノリのスーツ学生は、電話を切った。
すぐに婆さんが駆け寄って聞いた。
「ど、どうだった? 大丈夫だった?」
「あ、はい、もちろんです。とりあえず用意出来たらまた連絡くれるそうなので、もう少しお待ち頂けますか?」
「あ、ありがとうっ! ありがとう紅葉ちゃん!」
どうやら成功したようだ。
にしても思った通り、金持ちは金銭感覚が狂ってるんだな。
あんな短い電話で、本貸して、いいよみたいなノリで5千万が貸せるもんだなんてな。
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




