恋バナ
高坂さん視点です。
「まぁでもよしとしましょうか。高坂さんの詩苑へのお気持ちも聞けましたし」
「え?」
「あなたは私が怖かったはすです。それなのにあんな風にはっきりと言い返せる。それはとても強い事ですよ。同時に危ないところでもありますが」
「は、はい?」
「それだけ詩苑の事を愛して下さっているのですから、何も問題はないでしょう。私はお暇致しますね」
奏海様は、よく分からない事をたくさん言ってから席を立った。
そして出ていこうとしている……
「あのっ! 待って下さい! どこに行こうとしてるんですか!」
「どこに? そうですね、そろそろお風呂へ入ろうかと?」
「あ……詩苑君のところとかじゃないんですね」
「詩苑の? 何か伝えて欲しい事でもありました? あぁ、高坂さんが詩苑をとても愛しているという事ですか? それならば今日でなくとも……」
「止めて下さい!」
なんなんだ本当に!
今日でなくともって、まるで今すぐには伝えなくてもいい、どうでもいい事みたいな言い方をしてっ!
それに、今日以外だったら伝えるみたいじゃないか!
「奏海様は、人の恋愛感情をなんだと思ってるんですか! 誰だって他人に介入されるのは嫌なものなんですっ! そもそも詩苑君の気持ちを勝手に私に伝えた事だって……」
「ふふっ」
「か、奏海様?」
「あぁ、ごめんなさい。随分と可愛いなぁと思いまして」
「はい?」
「そうですね。勝手に気持ちを伝えるのはマナー違反ですよね。ですからさっきのは、私から見て詩苑が高坂さんの事を好いているように見えるというだけの事で、詩苑から直接聞いたという訳ではありません。私の勘違いという事もあるのですから……」
奏海様が笑った……
奏海様が私の頭を撫でた……
「安心して下さい。高坂さんの気持ちを勝手に伝えたりはしませんし、詩苑の事を本当に情けないと思っている訳でもありませんから」
「ぜ、全部、演技って事ですか?」
「演技かと問われると微妙なところですね。私が感情に乏しいというのは事実ですから。でも、色恋沙汰に介入されたくないというのは分かりますよ。これでも私、好きな人がいますからね」
「え、えぇぇええーっ!」
奏海様に好きな人!?
「そんなに驚く事ですか?」
「ご、ごめんなさい……」
「でも、内緒にして下さいね? 話したのは高坂さんが初めてですし」
「なんで私に……」
「苛めてしまったお詫びです」
「……えっと、告白はしないんですか? 悩むのはタイムロスですよね?」
「それは伝える事が決まっている場合ですよ。私の場合は、伝えない事が決まっているんです」
相変わらず何を言ってるのかはよく分からない。
でも、私が思っていたよりもずっと、奏海様が人間らしい人なんだっていうことは分かってきた。
「伝えないっていうのは誰が決めたんですか?」
「え?」
「奏海様がただ、伝える事に怯えてるだけなんじゃないんですか?」
「そう煽られましても……」
「煽ってる訳じゃないです。でも私には早く伝えた方がいいような事を言っておいて、自分は伝えないっていうのはおかしいと思うだけです」
「なるほど?」
好きな人がいるんなら、伝えればいい。
何でも出来て、お金持ちで、美人さんなんだから、奏海様から告白したら絶対に相手の人だってOKしてくれるに決まってる! っていうか……
「あのっ! 奏海様の好きな人の名前って何ですか?」
「名前……何故?」
「私を苛めたお詫びというのなら、名前もちゃんと教えてくれるべきです! 私はまだ奏海様が詩苑君に勝手に話さないかどうかが分かりません。だったら条件は同じにして欲しいです!」
「ふ、ふふふっ……」
「奏海様?」
「高坂さん? あなた、スノーフレークに入りませんか?」
「はい?」
「今すぐに入社して頂きたいところですが、まだ小学生ですからね。残念です」
奏海様は本当にとても楽しそうに笑っている。
でも私はもうこの程度の事で動揺したりしないし、話を反らされたりもしない!
「はぐらかされませんよ? 早く名前を教えて下さい」
「はぐらかしていた訳ではありませんよ。本心です」
「どっちでもいいですから、早く、名前!」
「仕方ないないですね……」
奏海様は少し屈んで、私の耳元へと口を近づけてこられ、
「柴崎空音」
と、本当にちゃんと名前を教えてくれた……
そっかぁ……奏海様ってくー兄の事が好きだったんだ。
少し意外ではあったけど、なんだかしっくりくるような感じにも思えて、伝えないつもりでいるという事をもったいなく思った。
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




