ガールズトーク
高坂さん視点です。
詩苑君に案内してもらった部屋でくつろいでいると、
コンコンコンッ!
と、軽やかなノック音が聞こえた。
こういう時のマナーとか全然知らないし、どうしたらいいのかもよく分からなかったので、ドアをこっちから開けさせてもらった。
すると、立っていたのは奏海様で……
……開けなきゃよかった。
いや、それはそれで失礼か……
「……あの?」
「急に来てしまってごめんない。驚きましたよね?」
「あ、いえいえいえいえ! えっと、どうしたらいいのかよく分からなくて、失礼でごめんなさいっ!」
「何も失礼な事はありませんよ?」
「そ、そうですか?」
「少し高坂さんとお話をしたいのですが、お部屋にお邪魔してもよろしいでしょうか?」
「どうぞどうぞっ!」
私がどうぞっていうのもおかしい気がする……
ここは奏海様のお屋敷なんだし……
「えっと、私は何をしたら?」
「何を? そうですね、では、私からの質問に答えていただいても?」
「はいっ!」
「まずは落ち着いて、座って下さいね。私も座らせてもらいますから」
「はい!」
さっきまでくつろいで座っていたふかふかソファに、姿勢を正して座り直す。
奏海様は対面のソファに座られた。
ずっと私への言葉使いも丁寧だし、厳しい事を言われた訳ではないけど、普通に怖い。
ただ無表情で座ってるだけなのに凄い威圧感があって……
「そんなに緊張しないで下さい。私が聞きたい事は1つだけですから」
「はい!」
「高坂さんは、詩苑の事をどう思っていますか?」
「はい! ……え?」
「ですから詩苑の事です。好きですか? 嫌いですか?」
「す、その……嫌いではないです」
「そうですか」
なんだろう?
凄く厳かな仰々しい雰囲気なのに、聞かれているのは詩苑君の事で……
しかも聞きたい事はこれだけって……なんなんだろう?
「詩苑はですね、これから先の未来もこの桜野家で働いていってもらう予定です。もちろん本人が望めば、他の事にも挑戦してもらいますが」
「はい」
「となると、高坂さん。あなたも相応にこの家の事に関わっていただく事になるんですよね」
「……はい?」
私は今、何を言われているんだろう?
奏海様が何を言いたいのか、全く分からない……
「もしかして詩苑……まだ高坂さんに何も言っていないのですか?」
「なにもって……」
「高坂さんの事を好きだという話ですよ?」
「……え、えーっ!」
何を、何を言ってるんだ!
全く……急に……それも真顔で!
変な冗談は止めて欲しい……
「私はてっきり高坂さんの返事待ちだと思っていたのですが、そもそも気持ちを伝えていなかったんですね。情けない……」
「な、情けない?」
「伝えないという選択肢はないのですから、伝えないでいるという行為はただのタイムロスです。そんな事に無駄に時間を浪費するだなんて……」
「無駄って……どうして詩苑君の気持ちを奏海様が決めるんですかっ! いくら伝える事が決まっていたとしても、どう伝えるのかをたくさん悩んで、一番いいと思った選択をする事の何が悪いんですか! 詩苑君の時間を無駄だなんて、勝手に決めないで下さいっ!」
ふー、ふーっと、自分から獣見ないな息が漏れているのがわかる。
流石に湯気は出ていないだろうけど、頭もかなり熱くなってしまっていて……
でもその熱は、私のこの叫びを無表情で聞く目の前の女性の鋭い視線の冷気によって、どんどん冷まされていく感じだ。
詩苑君の事をバカにされたように感じて思わず言ってしまったけど、私は奏海様になんて失礼な事をしてしまったんだろう……
でも、やっぱり詩苑君の事を悪く言ったのは許せなくて……
でも、そんな詩苑君はこの奏海様の事を尊敬していて……
でも、でも、でも……
「高坂さん、大変失礼致しました。私の失言をお詫び申し上げます」
「……え?」
「ガールズトークをしに来ただけのつもりだったのですが、怒られてしまいましたね」
奏海様は、私に深々と頭を下げて謝ってくれた……
それもガールズトークとか言ってるし……
本当にこの人、訳が分からない……
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




