遠距離
「では、失礼しますね」
「そうはいきませんよ、っと!」
ドゴッ! ガラガラガラ……
急に回し蹴りが飛んできた。
勢いのいいその足は、私が避けた事で老朽化した壁を少し壊している。
「危ないじゃないですか」
「そう思うのなら逃げないで下さい」
「私を攻撃している余裕があるのですか? 早くしないと爆発しますよ」
「あなたがここから一定の距離をとった時点で、遠隔で爆発させられるおそれがありますからね。すぐには解除出来ないからこそ、先にあなたをここに留めておく必要があるんです」
桜野奏海が刺された事に動揺していたとはいえ、流石にそこまで愚かではないか。
確かに私は安全圏に出たら遠隔で爆弾を作動させようとしていた。
だからこうして私を捕まえる行為を優先するというのは、実に素晴らしい行動だ。
だがこれでは、爆弾は止められない。
ただでさえ爆弾の解体が苦手だというのに、間に合うつもりでいるのだろうか?
それに何より、朝桐真は少し勘違いをしている。
「私がここに留まっていれば、遠隔を作動させないとお思いですか? 残念ですが、私は既にこの世界への興味を失くしています。だから別に、どうでもいいんですよね。死んでも」
「……」
「君達に捕縛されるくらいなら、死んだ方がいい。つまり、私を捕まえた時点で君は私と共に死ぬ事となるだろう。だから君に残された道は、私が遠隔を作動させる前に爆弾を解体するしかないのだよ」
「……それなら、あなたから遠隔の為に必要な機器を奪い取るまでです」
「機械類が苦手な君に、そんな事ができるのかな? やってみるといいさ」
殴る、蹴るだけでは飽きたらず、落ちていた石は投げて来るわ、パイプは振り回すわ……本当に滅茶苦茶な男だ。
パッと見は紳士的なのにな……
そしてそのどれもが、私に当たる事はない。
桜野奏海相手であれば勝てる気はしないが、朝桐真程度なら私の相手ではない。
いや、以前の私であれば、朝桐真にも確実に負けいただろう。
だからこそ、私は変わったのだ。
そして彼等の弱点も徹底的に調べ上げた。
ドッ!
「がはっ!」
朝桐真の腹部に、私の正拳突きが見事に決まり、朝桐真は倒れた。
「そのままそこでくたばってくれてもいいんだがね、私としては最後まで爆弾を止めようとしたという美談の方がいいと思うよ」
「ま、まて……」
「去らばだ、朝桐真……」
追って来られる事はなくなったので、安全圏へと向かう。
そして、遠隔を作動させるスイッチを手にしたところで、
ドーンッ!
という銃声が響いた。
手元にあったはずのスイッチは、ライフル弾によって撃ち抜かれた状態で、少し離れた位置に落ちている……
何故だ? 何故こんな事が出来た?
スノーフレークには今、栗林乃々香はいないはずなのに……?
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