分担
「まぁ流石に死んではいないでしょうね。あの桜野奏海の事ですし」
「……」
リアルタイム映像を見た朝桐真は黙りを決め込んでいる。
その表情は、怒り、驚き、動揺……
とはいえ桜野奏海が死んでいたらこの程度の動揺ではないだろうし、やはり生きていると考えた方が良さそうだ。
「あのアラン・スミシーがこんなにも泣き崩れるとは……やはり彼女の洗脳は化け物ですね」
「……何故逃げなかったんですか?」
「はい?」
「俺が驚いていた、今が逃げるチャンスだったでしょうに」
「チャンスはまだあるからですよ」
動揺していたはずなのに、冷静になるのが早い。
流石だな。
「チャンスとは、その箱ですか?」
「ご明察。こちら、あなた方も大好きな爆弾ですよ」
スノーフレークはわりとよく爆弾を使う。
それは、スノーフレークの開発部に爆弾好きの奴がいるからだ。
開発部主任、松山明奈が……
「本当によく調べたものですね。俺が爆弾を苦手としていると分かっての事なんですもんね」
「そうですね。あなた達スノーフレーク方は、得意分野を分担している。それはスノーフレークの企業理念の影響にもよるのでしょうね」
スノーフレークの企業理念、それは"出来ない事はやらなくていい"だ。
自分に出来ない事は他の誰かが出来る。
だから自分は皆が出来ない事を出来るようにと……
朝桐真は、人とコミュニケーションをとるのが得意だ。
相手が何を考えているのか、本当の事を言っているのか、嘘を言っているのかは大体分かってしまう。
そしてついた渾名が、人間嘘発見機。
これは、子供の頃からそうだったらしい。
だから大人を舐め腐ったような子供で、全く可愛げはなかったのだと、自分を自嘲していた事があるという。
おそらく何でも分かってしまうが故に、何もかもつまらなかったんだろう。
だが、そんな朝桐真だからこそ、人と対照的な機械類が苦手だった。
人に仕組まれたプログラムで動いている癖に、次にどう動くのかが分からないから。
何を考えているかも分からないのに動いている機械、ロボットはもちろん携帯やパソコン、エレベーター等も
そんな朝桐真には、爆弾の解体なんて事は当然出来ない。
「威力は、どうでしょう? 少なくともこの辺り一帯を吹き飛ばす程はあると思いますよ?」
「それは困りますね。俺が爆弾を無視し、あなたを追いかければ、この辺りは全て崩れる事になると……」
「理解が早いですね。ですので、私に逃げられる事を受け入れ、爆弾の解体を頑張って下さい。松山明奈にでも電話すれば、解体は出来るのでしょう? まぁ、時間はかかると思いますが」
松山明奈と一緒に来られていたら、流石に危なかった。
だがそれはないと確信していた。
何故なら松山明奈は桜野奏海以上の変人であり、開発以外の事は考えていない引きこもりだからだ。
間違っても現場に直接赴いたりはしない。
そしてそれを誰も咎めない。
何故ならこれも、スノーフレークの企業理念を守っている行いであるからだ。
自分に出来ない事は誰かがやってくれる。
それは仲間を信頼した、とても素晴らしい発言のようにも思えるが、実際には自分の苦手分野から逃げているだけ。
それでも常に仕事を分担し、受けた依頼に合った人物を采配していく事によって、スノーフレークという組織は保っていた。
元々化け物の集まりなんだから、それくらいの事は余裕だっただろう。
とはいえ、組織も大きくなれば、化け物が足りなくなってくる。
そして今回は、桜野奏海、刀川葵、柴崎空音、栗林乃々香の4人が、別の仕事で遠方にいることが分かっていた。
いくら化け物とはいえ、物理的な距離はどうする事も出来ないからな。
必然的に残った者が問題を解決する羽目になる。
他のメンバーの所在や性格から考えても、朝桐真が1人で来るというこの未来は簡単に予想出来ていた。
爆弾を解体出来ないものが、しなければいけなくなった状況。
分担をしていたからこその落とし穴。
スノーフレークはどのようにして切り抜けるのだろうか?




