悲鳴
高坂さん視点です。
詩苑君のお父さんは、私が思っていたような人とはちょっと違って、がさつでぶっきらぼうな感じの人だった。
それでもとても優しい人だという事は分かる。
「里香ちゃんだったよな。本当に悪いなぁ……」
「え、何がですか?」
「父さん! その事ですけど、高坂は急に色んな事があって疲れてるんです。お腹も空いていると思いますし、すぐに奥に案内を……」
「詩苑君? 私は大丈夫だよ?」
「ううん、大丈夫じゃないから! すぐに奥の食堂に行こう!」
「いや、そんなにお腹空いてないし……」
なんか詩苑君は私を奥に下がらせたくて仕方ないみたい?
そんなに私にお父さんと会われるのが嫌だったのかな?
「詩苑、諦めろ。これがお嬢の決定だ」
「で、でも……」
お嬢の決定? 奏海様が何を決定して……?
「日下部っ!」
私が少し悩んでいると、エントランスの方が急に騒がしくなった。
「お、お嬢様! 日下部が!」
「おかえりなさい。まぁ帰って来れるだろうとは思っていたけど。場所は?」
「す、既に紅葉様に連絡を……」
「そう。お疲れ様」
いつも詩苑君の送り迎えをしている日下部さん……
普段は凄くしっかりとした服を着ているのに、今はボロボロだ。
スーツも泥だらけで所々切れてしまっているし、その切れてるところから見える腕とか足とか、凄い傷だらけ……
相当痛いだろうな……
「柳佑は呼んであるから、すぐにみてもらって」
「はい、お心遣い感謝します」
「スーツもまた新調しないと」
「お手数お掛けします……」
「それにしても、あなたがここまでやられるなんて……そんなに手強かったの?」
「はは、お見苦しいところを……」
よろよろとしている日下部さんの方に、奏海様は段々と近づいていって、日下部さんの肩を支えている。
言い方は少し冷たい気がするけど、奏海様が日下部さんを心配しているのはよく分かる。
やっぱり優しい人なんだ……
私も助けてもらったお礼を言いたいなと思って、2人の方へと近づいて行こうとすると、
パシッ!
と、詩苑君に腕を掴まれた。
「詩苑君?」
詩苑君は返事をしてくれない。
ただ、あっちへは行くなという感じで……
何か行ってはいけないような空気だったのかと、改めて2人の方を向くと、
グサッ!
「く、さか……べ?」
ドタッ!
「うっうあぁぁぁあぁああっ! 奏海様っ! 奏海様ぁぁあっ!」
「お嬢様!」
「奏海様!」
何が起きたのかは、全く分からなかった。
ただ見えたのは日下部さんがナイフみたいなのを奏海様の背中に突き立てるように振り下ろしているところで……
奏海様はたくさんの赤い液体を飛び散らせて倒れて、皆の悲鳴が聞こえて……
その中でも一番苦しそうに悲鳴を上げていたのは、奏海様を刺した張本人である日下部さんだった……
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