優しい言葉
美代子さん視点です。
2階からした音は、犯人の男が箱を落とした音だった。
浩一が何かされたとかではなくて安心したけれど、私の不用意な行動で犯人を刺激してしまった。
もっと気を付けないと皆が……
「美代子さん、さっきの音は大丈夫でした?」
階段を降りると紅葉ちゃんが心配してくれた。
「ええ、ごめんなさいね……ちょっとバランス悪く積んでた荷物が倒れただけだったわ……」
「でも美代子さん、顔色悪いですよ? 大事な物でした?」
「いいえ、大丈夫……大丈夫だから……あの、ほら階段上って疲れただけよ」
「そうですか?」
「ええ、戻ってケーキの続き食べましょう。そしたら私も復活するから」
「はい」
もう絶対に犯人に怪しまれることはしない。
ここだと、犯人のカメラに写らなくて怪しまれてしまう……
私は紅葉ちゃんと、リビングのテーブルまで戻った。
「そういえば、これよ。最近の陸君の写真」
「わ~、可愛いですね。こうして並べてみると、成長がよく分かりますね」
「そうなのよ」
紅葉ちゃんは私の携帯の写真と、リビングに飾ってある写真を見比べながら、そう言ってくれた。
「こっちの写真はまだ陸君が生まれる前ですか?」
「ええ、これはあの人の生前ね。まだ陸君が生まれる前で、浩一と由佳ちゃんが結婚したときの写真よ」
「じゃあ、この方が息子さん?」
「ええ、こっちが由佳ちゃん。由佳ちゃんもね本当に浩一には勿体ないくらい良い子なのよ」
飾ってある別の写真を見ながら紅葉ちゃんが聞いてくれる。
由佳ちゃん、陸君……
お願いだから、無事でいて……
「はぁー」
「美代子さん?」
「あぁ、ごめんなさいね」
思わずため息をついてしまっていた。
「大丈夫ですよ。その借金を返したらまたやり直せばいいんですよ。スノーフレークに返すのはいつでも大丈夫ですから。そんなに気を落とさないで下さい」
「え、えぇ……ありがとう紅葉ちゃん」
紅葉ちゃんは私の不安を気にして、優しい言葉をかけてくれる。
浩一が起業に失敗したという、私の嘘を信じてくれてる。
違うのよ、私はあなたを騙してる。
本当にごめんなさい……
「あっ! 15時になりましたね。ちょっと電話してみますね」
そう言って、紅葉ちゃんは自分の携帯を取り出して電話をかけ始めた。
もうそんな時間になってたのね……
大丈夫かしら? ちゃんとお金、貸してもらえるかしら?
そんな、紅葉ちゃんからお金を騙し取れるかを心配している私は、本当に最低だ……
「ああ、神園さん。四之宮です。奏海に繋いでもらえますか?」
紅葉ちゃんは電話をしてる。
神園さん……
確か前に紅葉ちゃんから聞いたことがある。
桜野家の執事長だったわね。
「奏海? ごめん、ちょっとお願いがあって……ちょっと、5千万円ほど貸してほしいんだよね」
奏海さんに代わったみたいね。
紅葉ちゃん、結構直球で頼むのね。
何に使うとかも言ってないし、そういう感じで貸してもらえるものなのかしら?
「それは、私もそうだとは思うけど……」
どうしたのかしら?
急にだから無理とか言われたのかしら?
「うん、ごめん……」
謝ってる……
紅葉ちゃんは何も悪くないのに……
本当にごめんなさい……
「うん。……そうだね、早い方がいいっていうか、今すぐだね。……うん、今度ちゃんと話すよ。……はーい」
大丈夫なのかしら?
電話相手の声は聞こえないから、余計に心配……
紅葉ちゃんが怒られてなければいいけど……
「りょーかーい。待ってるね、また連絡して」
最後にそう言って、紅葉ちゃんは電話を切った。
「ど、どうだった? 大丈夫だった?」
「あ、はい、もちろんです。とりあえず用意出来たらまた連絡くれるそうなので、もう少しお待ち頂けますか?」
「あ、ありがとうっ! ありがとう紅葉ちゃん!」
無事にお金は用意してもらえるみたい。
本当に良かった。
あとは皆が無事に帰ってきてくれさえすれば……
「なんか、謝ってたみたいだけど、怒られたりしたの? 本当にごめんなさい……」
「いえ、全然大丈夫ですよ。急だったのでビックリされただけです」
「そう? 本当にごめんなさいね……」
「本当に大丈夫ですから。安心して下さいね」
紅葉ちゃんは変わらず私に優しい言葉をかけてくれる。
紅葉ちゃん……私にはそんな資格なんてないわ。
いくら家族の為だからといって、あなたを巻き込み騙しているのだから……
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




