幻想
高坂さん視点です。
「さて、帰りますよ」
と、何もなかったかのように声をかけて下さった奏海様に、
「おいっ! 何が爆弾だっ! 何も爆発しねぇじゃねぇか!」
「くそっ、踊らされた……」
「コイツならガチでやりかねねぇからな」
と、恐い人達がまた集まってきた。
「おかしいですね、爆弾のはずなのですが? 不発弾だったのでしょうか?」
「ふざけやがって! 自分は一切逃げもしないでおいて、何が不発弾だ! 最初から爆弾じゃねぇ証拠だろうがっ!」
「あぁ! 私としたことが……」
「な、なんだ?」
「どうやらカウントを間違えていたみたいです」
「は?」
「そろそろですね、7、6……」
「に、二度も同じ手をくうか……」
「3、2……」
「「「わぁぁああ!」」」
あの人達の言うように、奏海様は全く逃げる気配がない。
だからこれもきっとまた嘘なんだろうと思っていると、
バチバチバチバチッ!
と、本当に爆発した。
でもあれ……花火?
なんか、凄い音だけ大きい花火で、そこまで綺麗じゃない。
「詩苑は自分で歩けるでしょ?」
「もちろんです!」
「あなたは私に掴まって下さい」
「あの、私も歩けますけど……」
「ダメですよ。ここからの道は瓦礫も多いので、足を挫いてしまうかもしれません」
「そ、そうですか……」
奏海様が屈んで下さったので、お言葉に甘えて肩に掴まらせてもらって、そのままおんぶしてもらった。
恐ろしい人だと思うけど、背中は温かい……
やっぱりこの人も、人なんだな……当たり前だけど。
「は、花火だと?」
「綺麗でしたか?」
「バカにしやがって」
「しかもその状態じゃ俺等とやりあうのも無理だろ! なめてんのか?」
「何故私があなた方とやりあわねばならないのですか?」
「はぁ?」
「だってほら、あなた達の相手はすぐそこに」
「なっ!」
奏海様がそう言った時、恐い人達の後ろには黒いパーカーを着た人が立っていた。
フードを目深に被っていて、顔とかは見えない……
「いつの間にっ!」
「かなみぃー! さっきの合図ってこたぁ、これ、いいんだよな?」
「好きに運動して。あ、殺さないようにね」
「へいへーい!」
ドガッ! ボゴッ!
「ちょっと! もう少しあとから始めてよ。まだ子供達がいるんだから」
「でもよぉ、通り道が必要だろ?」
「まぁね……でも、ほどほどにして」
「へーい!」
わーとか、ぎゃーとか、色んな声が響いている中、奏海様とさっきのフードの人が話しているのが聞こえた。
そしてこの声を私が聞き間違えるはずはない。
私の知っている、優しくて、紳士的で、いつも笑ってくれている、あの最高に格好いい人の声……
……そうだよね。
だって、あのスノーフレークの一員なんだもんね。
フードの下に少しだけ見えた口元から、笑っているのが分かった。
それもとても楽しそうに……
詩苑君は知ってたのかな?
うん、きっと知ってたはずだ。
だって今も全然驚いていないんだもん。
驚いていないというか、寧ろ私を心配するように見てくれてる。
私がそれなり耳がいいのも、詩苑君は知ってるもんね。
私に話してくれなかったのは、私の幻想を壊さないようにするためだったんだね……
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




