無表情
高坂さん視点です。
ドゴーンッ!
凄い大きな音が響いて、恐い人達は狼狽えている。
ドゴッ! ガラッ!
「ありがとう、お蔭で大分手間が省けた」
「それは良かったです」
私が気がついた時には、私と詩苑君を庇うようにして、恐い人達と向き合う奏海様が立っていた。
「桜野、奏海……?」
「そうですが?」
「な、んで……」
「なんでと問われましても? 私はただ、この2人を迎えにきただけですので」
「は……?」
さっき携帯で見た奏海様は、どう見ても捕まっていた。
でもこの奏海様は凄く元気そうだ。
少し横を見てみると、まるで爆破でもされたかのように壁に大穴が空いていて……
私もそうだけど、恐い人達は全く状況が分かっていないみたいだ。
分かっているのは、奏海様と詩苑君だけ…………やっぱりなんか胸が変な感じ。
「迎えに来たって、だってお前……」
「この子達が大きな声を出して居場所を教えてくれましたからね。あとはそこにたどり着けるようにこの建物を壊すだけです」
「……は?」
それで詩苑君は大声で騒いでいたんだ。
多分さっきの携帯で見た時に、奏海様が私達と同じこの建物内にいると気が付いて。
「今更無駄なアドバイスとなってしまいますが、1つお伝えしておきますね」
「何を……」
「私と人質達、同じ建物内に収容するというのはやめた方がいいですよ。一緒に逃げられてしまいますから」
人質達というのは詩苑君と私の事だろう。
自分も捕まって連れて来られていたというのに、自分は人質とはならないんだ。
ううん、きっと最初から捕まってなんていないんだろう。
「は、ははっ……逃げられるって、ここからか?」
「逃げられないように見えます?」
「当たり前だろ! 俺達にはまだ色々と……」
「その色々が全て通用しなかったから、私はここにいるのですが?」
「ありえねぇ……」
「現に今、ありえていますよ?」
物凄く人をバカにしているみたいな喋り方。
奏海様ってこんな風に喋る人なんだ。
ちょっと意外……
「睡眠薬は……」
「そんな物、飲む訳ないでしょう」
「だが確かにあの料理長が……」
「料理長がなんです? 睡眠薬をスープに入れたとでもお思いですか? 桜野家の料理人を侮ってもらっては困ります。そんな料理への冒涜を許す人はいません」
さっき詩苑君も言ってた。
やっぱり料理人さんは、皆料理を大切にしてるんだ。
「で、でも、筋弛緩剤を打ったはずだ……」
「あぁ、確かに腕に打ってましたね」
「じゃあなんで……」
「私の腕ではないからです」
「は?」
「ほら」
「ひぃっ!」
ゴトッ!
奏海様は自分の腕を引き抜いて投げた……
どうみても本物の腕にしか見えなかった、人形の腕みたいなものを……
「義手……なのか?」
「まさか、ちゃんとありますよ」
腕がなくなったように見えた奏海様は、服を少しずらすようにして、袖から新しい腕を出した。
新しい腕っていうか、本物の腕?
「マジックの1つですよ。ただ、人形の腕を持っていただけです」
「そ、そんな……だ、だがそれがなんだってんだ! お前等が捕まってる事に変わりは……」
「私が化け物だとか言っていたみたいですね」
「あ? 急になんの話を……」
「言い得て妙だと思っただけです。あなた達はその化け物を前にしているのですよ。早く逃げた方がいいと思いますけどねぇ?」
「なんで俺達が逃げ……」
「その腕、爆弾になってるんです。爆発まで、5、4、3」
「わぁぁあああ!」
恐い人達を脅した奏海様は、
「さて、帰りますよ」
と、声をかけてくれた。
その無表情は、さっきまでの恐い人達以上に恐かった……
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




