子供の癇癪
高坂さん視点です。
外の様子も見れないし、あれからどれくらい時間のが経ったのかは分からないけど、さっきの恐い人がニマニマと笑いながら戻ってきた。
「お坊ちゃん、いい父ちゃんを持ったな」
「どういう意味ですか?」
「お前の父ちゃんは俺達のいいなりって事だよ」
「……そんな訳ないっ!」
詩苑君のお父さんが、この恐い人達のいいなり?
いつも忙しい詩苑君のお父さんには私も会った事はないから、どんな人なのかは知らない。
でも詩苑君が憧れている人なんだし、簡単に恐い人達のいいなりになるような人じゃないと思う。
「それだけお前が大切に思われてるって事だろ? 良かったじゃないか」
「そ、そんなの演技に決まってる! いいなりになったフリして、お前達を捕まえるんだっ!」
え? そんな事言っちゃっていいの?
あ、いいのか。
別にそんな子供の私でも分かるような事、この人達が考えてないわけないんだから。
「残念だがしっかりいいなりなんだよ。お蔭で桜野奏海も捕まえた」
「お、お嬢様を、捕まえた……?」
「あぁ。お前の父ちゃんが奏海に毒入りスープを飲ませてくれたお蔭でなぁ」
「……嘘だっ! 父さんは一流の料理人なんだぞっ! そんな料理への冒涜を許す訳がない!」
「それが許しちゃったんだよなぁ~ははっ!」
詩苑君は凄く怒ってる。
こんな風に荒れている姿を見るのは初めて……じゃないか。
前にもあったし、なんなら前の方がもっと凄かった気がする……
でもあれ? 前っていつだっけ?
そもそも、詩苑君はあの時どうして怒ってたんだったかな?
「お前達なんて、お嬢様にやっつけられるに決まってる! お嬢様は凄いんだぞ!」
「そうだな。その凄いお嬢様は、お前の父ちゃんのお蔭でで俺達に捕まったがな」
「ありえないっ! お嬢様は、お嬢様はっ!」
「なら、証拠でも見てみるか?」
「え……」
「ほらよ」
恐い人は詩苑君の携帯をかえしてきた。
そこに写っていたのは、手足を縛られた状態でぐったりと倒れている女の人で……
「こ、こんなの……」
「な? 本当にだったろ?」
「ち、違うっ! これは人形とかなんだ! あのお嬢様がこんな風に倒れるなんて……そうだ、これは絶対人形だ!」
「こんな人形を作る事に何の意味があるんだよ」
「うるさいっ! 僕は騙されないからなっ!」
こんなに明らかな奏海様が捕まった証拠を見せられているのに、それでもまだ詩苑君は奏海様を信じてる。
その事を考えるとちょっと胸の辺りがそわそわするけど、こうも詩苑君らしくない詩苑君を見せられたら、流石に私だって分かる。
だから私も頑張ろう。
怯えて震えてるだけの足手まといになんてならないように!
「詩苑君の嘘つきっ! 奏海様が助けてくれるって言ったのに……」
「こ、高坂……」
「奏海様、捕まってるんじゃん! これじゃあもう、助けてなんてもらえない……」
「ち、違う高坂……これは絶対お嬢様じゃないから……」
「うっ、うわ~ん! うっ、うぅ……早く、早く帰りたいのに……」
「高坂……」
詩苑君は慌てた様子で泣く私の方に来てくれて、恐い人から隠すように私を支えてくれた。
どうかな? 私の泣く演技もなかなかのものじゃない? と、そんな思いでちょっと舌を出して詩苑君にウインクすると、詩苑君は呆れ顔で笑い返してくれた。
「お嬢様は助けに来るっ!」
「こないぃぃいい!」
「来るんだっ!」
「だってもう捕まってるぅ……うぅ……うわ~!」
「ったくうるせぇガキ共だな!」
恐い人はだんだんイライラしてきてる。
詩苑君がらしくなく怒っていたのは、この人達を怒らせるためで間違いないし、こういう人達は子供にも優しくないものだ。
だから泣いている子供にも喧しいとしか思わない。
でも、そうやって子供の癇癪を甘く見てるから痛い目をみることになるんだと思うよ?
ドゴーンッ!
「な、なんだ?」
ほら、やっぱり。
私はこれでも音楽の成績はいい方で、皆にもよく響く声だと褒めてもらってるんだから!
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




