お坊ちゃん
犯人視点です。
「詩苑君!」
「高坂! 怪我はないか?」
「う、うん……」
連れて来た桜野家料理長の息子と、その友人の女の子を会わせておく。
こんなガキ同士、一緒にしておいたところで何も問題はないからな。
「おい、お前父親に連絡出きるよな? お坊ちゃんだし、携帯くらい持ってるよな?」
「ありますよ、はい」
「素直だな」
「断る事にメリットはなさそうですから」
可愛げのねぇガキだ。
同級生だという女の子の方は普通のガキらしく恐怖に震えているみたいだが、この料理長の息子は完全に俺達を舐めている。
怯えてもいないし、女の子を庇うように俺達と対峙してきていて、一丁前のナイト気取りだ。
だが、下手に傷を付ける訳にもいかねぇし……
「僕がこうして捕まったんですから、高坂はもう関係ないはずです。ちゃんと家に帰してあげて下さい」
「し、詩苑君……」
「そうはいかねぇな。だが安心していいぞ。奏海さえ捕まえたら、お前達は無事に帰してやる」
「お嬢様を?」
「それまではお前達をここに連れて来ている事を奏海に知られる訳には行かないからな。終わったらちゃんと帰してやるよ」
「そんな……」
とりあえず閉じ込めておくか。
奏海は今日は出掛けていていない。
そしてこの騒動もまだ気付いていない。
この隙にまずは料理長をこっちの人間にしなければ……
料理長の息子の携帯から、"父さん"と登録されていた番号にかける。
♪♪♪♪♪
♪♪♪♪♪
♪♪♪♪♪
なかなか繋がらないな……
桜野家の料理長ともなると、忙しくてなかなか電話にも気付かないのかもしれないな。
それならこっちの"母さん"の方にするか。
♪♪♪♪♪
♪♪♪♪♪
♪♪♪♪♪
母さんも出ねぇのかよ……
さてはあのガキ、あまり親に構ってもらえないで、拗ねているタイプのガキか?
となると、自分は愛されてないとか、そういう事を考えて自暴自棄になっているんだろう。
さっき自分がいるからと女の子は帰らすようにとか言っていたし。
だが、そういう奴こそ親に愛されているもんだ。
なかなか構ってやれない事を、両親は気にしているだろう。
そんな大切な1人息子と、自分が遣える家の傲慢なお嬢様。
どっちの為に行動するかなんて決まってる。
♪♪♪♪♪
の、はずなのに、出ない!
出ないと話しにならない。
刻一刻と時間も経ってしまっているし、時間が経てば経つほどに奏海に話が伝わる可能性も……
「おい、さっきスノーフレークの奴を捕まえたらしいぞ」
「スノーフレークの? 誰だ?」
「名前は名乗ってねぇが、おそらく奏海に近い幹部クラスだ」
「しかも、スノーフレークに嘘の連絡をさせる事にも成功したらしい」
「って、事は……?」
「あぁ、時間稼ぎに成功だ。まだまだ当分奏海に伝わる事はないはずだ!」
よし!
それならいける!
と、そんな俺達を後押しするように、
♪♪♪♪♪
と、料理長の息子の携帯がなった。
画面をみると、父さんの文字。
やっと息子の危機に気がついたみたいだな。
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




