嘘の連絡
綾瀬さん視点です。
「遅くまでお疲れ様です」
「あぁ、久実さん。今あがりですか? お疲れ様です」
紅葉主任に挨拶をすると、主任は笑って見送って下さいました。
でも、なんでしょう?
どことなく笑顔がぎこちないですね……
「あの、何かあったんですか?」
「ありませんよ?」
「本当に?」
「本当です」
「さっきの真さんからの連絡の件ですか?」
「……はぁ、流石はスノーフレークの受付ですね」
「今のは紅葉主任が分かりやす過ぎたのが大きいです。わざとかと思うくらいですよ?」
「わざとではなかったのですが……私には演技の才能がそんなにありませんからね……」
やっぱり悩んでおられたみたいです。
今日は珍しく、緊急信号が入りました。
そしてその件で紅葉主任は忙しくなり、紅葉主任の恋人でもあるスノーフレークメンバーの、真さんが現場に向かわれました。
現場にはタイヤを撃ち抜かれた桜野家所有の車が一台で、他には何の痕跡もなく、乗っていたはずの桜野家料理長、柾谷龍彦さんの息子、詩苑君と、桜野家庭師の日下部さんが行方不明との事でした。
ですが、すぐにもう1つの連絡が真さんから入り、それによると既に解決していたとの事で……
スノーフレークでは事件がすぐに解決する事は珍しくありませんし、それならば良かったと皆で安心していたのですが……
「まだ解決していないんですか?」
「……いえ、真は解決したと言っていましたから、解決したんですよ」
「だったらどうして紅葉主任はそんなに浮かない顔をされているんですか?」
「……」
「真さんが嘘を言っていると思ってるんじゃないんですか? 本当は悪い人達、詩苑君を誘拐した人達に捕まってしまっていて、嘘の連絡をさせられたんじゃ……」
もしそうだったら、何も解決していない事になります。
詩苑君も日下部さんも捕らえられたまま、そこに真さんも加わってしまって……
しかも今日は柴崎さんも栗林さんもみえませんし、奏海さんもそろそろ帰ってくるというだけでまだです。
そんな奏海さんに変わって仕事をされている葵さんも大変忙しそうで……
「大丈夫ですよ、久美さん」
「紅葉主任……」
「真は最初、何も痕跡がないと言っていました。あの真に見つけられなかったのですから、本当に何もなかったんです」
「はい」
「ですがすぐに、痕跡もあったからおうという連絡が来て、その後に解決したと言っています」
「だからそれが嘘だったら……あの演技の上手い真さんですよ?」
「私はその彼女ですよ?」
「……はい。彼女だから嘘は見抜けるってことですか?」
「ふふっ、私達は互いに相手の本質を見抜くプロですからね。だから私達は、言葉以外の声のトーンや抑揚などでも会話できるようにしているんですよ」
流石だとしかいえないけど……
それでこんな浮かない顔をされているんだから、それは真さんからの連絡が良くなかったという事で……
「確かにこの問題はまだ解決していませんし、真も詩苑君もまだ危険な状態にあります。けれど心配は要りません。じきに解決しますから。私が浮かない顔をしていたのは、真の連絡から、無傷では解決できない問題だと分かったので、その怪我の心配をしていただけです」
「重傷の可能性があると……?」
「いえ、真と詩苑君にその心配は必要ありませんよ」
「では、日下部さんですか? 私は詳しくしりませんが、桜野家の庭師さんなんですよね?」
「はい。ちょっと無茶をしがちの……」
「あぁ……」
「でも、とても強い方ですからね。大丈夫です」
桜野家の使用人さん達は、皆さん常軌を逸しています。
紅葉主任もこう言っていますし、大丈夫だとは思いますが、心配ですね……
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




