あの男
犯人視点です。
桜野奏海にしてやられた。
ちょっと利口なだけのガキだと思っていたのに、まさかあんなふざけた奴だったとは……
何とかしてやり返したいが、そう簡単にもいかない。
それに油断をすればまたやられるのは俺達の方になっちまう。
無策で挑むのはバカのする事だ。
だから俺達は、桜野奏海の事、スノーフレークの事を徹底的に調べ上げた。
だが、分かることなんて少な過ぎる……と、若干諦めかけていた時、とある雑誌が桜野奏海の独占取材なんてもんに成功してくれた。
お蔭で今まで知ることが出来なかった桜野奏海の弱点も分かってきた。
桜野奏海は、他人を全く信用していない。
信用しているのはスノーフレーク幹部のメンバーと、桜野家の中の極わずかな使用人達だけらしい。
中でも食事に関してはかなり警戒しているようで、料理長の作ったもの以外は食べないらしい。
その情報を得た時、これは使えるとすぐに思った。
そしてその料理長である柾谷龍彦を調べた結果、1人息子がいる事が分かった。
しかもそいつ実に狙いやすく、普通に学校へ通っているという。
狙う日取りも決め、完璧な計画を立てた。
今日は料理長の息子が桜野奏海からレストランの視察を頼まれたとかで、帰りが遅くなる日だ。
こんな絶好の機会を逃す訳にはいかない。
桜野家へと帰る料理長の息子が乗った車を襲うと、思っていたよりはあっさりと降りて出てきた。
タイヤを撃ったからこそ、狙いが殺しではないと分かった事と、車の中に籠っていても逆に危ないと判断したからだろう。
だが、狙われいると分かっていて、こうも簡単に降りて来るというのは……
「意外と素直に降りてきたな」
「あなた達ですか、こういう事をされたのは」
俺達に囲まれているというのに、運転手の男に動揺している様子はない。
流石はあのイカれた桜野奏海の犬だ。
しかも料理長の息子の方も、若干怖がってはいるようだが、同時に俺達をバカにしているようにみてきている。
「そのボクちゃんを渡してもらおうか?」
「お断りさせていただきます」
この状況で、自分達の方が優勢であると思っているんだろう。
だったらそんなのは甘い考えだと思い報せてやる。
「お前にお断りする権利なんてないぞ? アラン」
「なっ!」
運転手の顔色が一気に変わった。
料理長の息子もだ。
さっきまでの大人を舐めたような態度から一転して、俺達に怯えたような視線を向けてきている。
にしてもここまで変わるとはな。
あの男の言っていた通りだ。
「詩苑君、これは想定外だ……」
「そうみたいですね……」
「申し訳ないけど、ちょっと乱暴させてもらっても?」
「僕は構いませんけど、いいんですか?」
「後で奏海様に怒られる事にするよ」
「はい」
ここまでの反応の違いに俺がちょっと驚いていた隙に、アランだとかいう名の運転手は、料理長の息子を担ぐようにして、走り出してしまった。
止めようとする俺の部下達もどんどんやられていく……
なんて強さだ……
「ボス、どうしますか?」
「あいつらは何をしてる?」
「そろそろこっちに来ます!」
「そうか」
少し驚きはしたが、このアランが強い事なんて想定内だ。
「おい、ボクちゃん。逃げちゃって本当にいいのか?」
「……?」
「大切なお友達、見殺しにするつもりかい?」
「そ、それは……」
「里香ちゃんだったかな? 可哀想に、お友達に捨てられて……お兄さん達が遊んであげる事にするよ」
「日下部さん、すみません……」
「仕方ないよ……」
逃げようとするのをやめて、大人しくなったアランと料理長の息子。
とりあえず俺達はアランに用なんてないし、あの男にでも連絡するとするか。
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