お誘い
episode10になります。
高坂さん視点です。
「高坂、ちょっといいか?」
「んー? 何?」
朝の会が終わってすぐの休憩時間。
詩苑君が声をかけてきた。
「今日の放課後空いてるか?」
「特に何の用事もないけど? 何かやりたいの?」
「あぁ、ちょっとお嬢様から仕事を任されてさ」
「ふーん、よかったね」
「それがさ、ホテル内のレストランの視察なんだけど」
「頑張ってね」
「一緒に来てくれないか?」
「……やだ」
「やっぱり、まだ怒ってるのか……」
別に怒ってる訳じゃないんだけど、なんか素直になりたくない。
詩苑君が悪い訳じゃないっていうのも分かってはいるんだけど……
「お友達も誘ってって言われたし、僕1人で行くより色んな意見があった方がいいし……」
「それは分かってるよ。でも今はちょっと……」
「悪かったって……でもさ、レンの兄ちゃんの事はさ、僕もスノーフレークの人って事は知らなかったんだって……わりとよく桜野家に来てる事は知ってたけど……」
「だから、それを知ってたなら教えてくれたって……」
「お嬢様のお客様の情報を漏らせる訳ないだろ!」
「それは、そうだね……」
詩苑君の言ってる事はちゃんと分かるけど、それでもやっぱり、私がレンの事を好きなのを知ってて隠してたっていうのが、なんか納得できない。
確かにレンが桜野家に来てたなんて聞いてたら、行ったら会えるかな? って、迷惑をかけちゃってたかもしれないけど、そんなにあちこちに広めたりは……してたかもしれないけど、でもやっぱり話してくれても……
そんなに私って、信用なかったのかなって……あれ? 私が怒ってるのって、レンの事を教えて貰えなかったからだよね? 信用されてなかったからじゃなくて……?
「その……れ、レンの兄ちゃんに今度会ったら、高坂が会いたがってたって、ちゃんと伝えておくから……」
「……なんか詩苑君、嫌そうだね?」
「別に嫌な訳じゃないけど……」
「もしかして、苦手なの? レンの事?」
「そうじゃないけど……」
なんか詩苑君らしくないな。
いつもなら言いたい事とかははっきりと言う方なのに。
「もう分かったよ。行く、今日ね」
「あぁ、いいのか?」
「うん。私もなんか意地張ってた、ごめん」
「高坂が謝る必要はないから……その、ありがとう」
「うん」
最近ちょっとギクシャクになっちゃってた詩苑君との関係も、これで解決にしよう。
多分奏海お嬢様は、詩苑君が学校で友達と喧嘩してるとでも心配して、この仕事を詩苑君に任せたんだろうし。
そもそも私だって、あの桜野家っていうところで働いてるんだから、詩苑君が大変なのはちゃんと分かってる。
だからこれ以上私が変に意地張って、詩苑君に迷惑をかけ続ける訳にはいかない。
それに私自身、最初に怒ってた事がなんか変わってるような、変な感じもするし……
「里香? どうしたの?」
「あ、愛依ちゃん。なんでもないよ?」
「そう? 詩苑君とは仲直り出来たんでしょ?」
「そもそも喧嘩してないからね」
「そうなんだ」
「あ、愛依ちゃんは今日の放課後空いてる?」
「空いて、ない……」
「えぇー? 嘘だー! 今のは空いてるって顔だった!」
だって今、変に詰まらせたし!
何より転入してきた当初と違って素直になった愛依ちゃんは、嘘がかなり下手なんだから!
「はぁ、なんでそういうのには敏感なの?」
「空いてるんだよね?」
「一応……でも、朝詩苑君と話してた奴なら行かないよ」
「なんで? 美味しいご飯だよ? あ、お父さんに悪い?」
「そうじゃないよ。お父さんは私が美味しいご飯を食べてくる事を喜んでくれるから」
「じゃあ行こうよ!」
「えー、詩苑君に悪いし……」
「大丈夫だよ。奏海お嬢様はお友達も誘ってって仰られてたらしいから!」
「そういう事じゃないんだけど……」
なんか悩んでいる様子ではあったけど、愛依ちゃんは一緒に行く事になった! というか、私がした。
やっぱり美味しいご飯は皆で食べた方がいいもんね!
それなのに他の皆を誘っても断られてしまう……
まぁいくらお嬢様が友達を誘うようにと言ってくれていたとしても限度があるだろうし、流石に大人数になるのは良くないと思うから、少人数の方が丁度いいかもしれないけど。
詩苑君は将大君を誘ってるだろうし、将大君に何か用事があった事なんてない。
これはいつメンでのレストラン視察になりそうだ!
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




