手合わせ
稔さん視点です。
「蓮也、CMとポスターの撮影をよろしく」
「はぁ?」
「スノーフレークが相談無料だっていうのを、世間様にもっとアピールしたいの。その為にレンがスノーフレーク所属だということをバラしたんだし、いいポスターを作って」
「俺が作るのか?」
「それくらいは出来るでしょ?」
「……ヤダ」
「なんで?」
「お前が俺の話を聞かねぇから」
「乃々香みたいな事、言わないでよ」
奏海と蓮也は、仲のいい幼馴染みらしい会話をしている。
まぁ、俺の"幼馴染みらしい"感覚というのも、こいつ等のせいで大分ズレちまってるが……
「あのガキと一緒にするな」
「じゃあよろしく」
「なら聞けよ。この間のあの変な証言、お前が言ってた通り"日陰組"の奴等の仕業だって、さっきテレビ局で聞いたんだ」
「どうせそんな事だろうと思ってた。行きたいとか、言わないでよ」
「行きたい!」
「ダメ!」
「なんでだよ!」
「レンは大切な商売道具なの! 顔に怪我でもしたら……」
「するわけねぇだろ」
「そういう油断は命取り」
「……チッ」
日陰組……聞いた事があるな。
確か構成員もそこそこいるデカい組織だったはずだ。
あまり悪評も聞かないが、こいつ等の話からして、これから一戦交えるみたいだな。
「誰が行くんだ?」
「私」
「ずりぃ……俺はずっと運動できてないんだぞ?」
「だからって、行かせる訳にはいかないの。動き足りないなら、空音か真を相手にしていればいいでしょ」
「あいつら弱すぎだし……」
「葵に頼んだら?」
「なんで俺がアイツに頼み事なんてしなきゃいけないんだ?」
急に空気が凍りついたように感じた。
本当に蓮也は、葵って奴の事が嫌いなんだろう。
そしてその葵は、かなり喧嘩も強いと……
「……はぁ、分かった。じゃあ相手してあげる」
「マジか!」
「その代わり、ちゃんとCMとポスターの仕事もやってよ」
「分かってるって!」
冷ややかな顔をしていた蓮也は、奏海の言葉に喜び破顔して笑っていた。
奏海に相手をしてもらえるのが相当嬉しいんだろうな。
「という事で稔さん、取材を受ける時間がなくなりました」
「……は?」
「これから蓮也と手合わせをしますので、取材は受けれません。時間がおありでしたら、明日にでもスノーフレーク本社へと向かって下さい。紅葉という人物に、桜野奏海が答えそうな事を言ってもらうので」
「……奏海。お前、最初からこうなるって分かってたな?」
「そうですね」
「ったく……」
俺も別に、桜野奏海の取材をしたかった訳じゃねぇから別にいいけどな……
それにしても……
「そのお前等の手合わせってぇのは、俺が見学してもいいのか?」
「いいですよ。でも、怪我は自己責任でお願いしますね」
「は? 怪我?」
「そうだな」
折角ならそっちを見学でもしようと思ったのに、なんかおっかない事を言ってきた。
なんで見学者の俺が怪我をするのかというのは、桜野家内にある道場のような場所に移動してすぐに分かった……
バットに木刀、メリケンサックや槍といった、危ない武器がそこかしこに置いてあったから……
そして何の躊躇いもなしに、木刀を持った蓮也は丸腰の奏海に斬りかかっていて、手を奏海に弾かれた結果、その木刀は俺の方へと飛んできた……
こんな危ない手合わせ、見ていられる訳がない。
見学は諦めよう。
「稔様、お帰りですか?」
「あぁ、あんなイカれた奴等とはこれ以上いられねぇし」
「左様でございますか。では、お送り致します」
「ありがとうございます」
本当は兄として妹の事をもう少し知れればと思っていたが、仕事の取材じゃそれを知るのは無理そうだ。
それに蓮也も言っていたが、奏海は俺の前では素で接してくれているんだ。
だったら変に質問して聞いたりするより、こうして直接会って話していった方がいいだろう。
とりあえずは今度帰省した時にでも、奏海と蓮也が武器ありきで手合わせという名の喧嘩をしている事を、父さん達に話しておくとするか。
きっと奏海は怒られるんだろうな……
読んでいただきありがとうございます(*^^*)
episode9は完結です。




