独占取材
稔さん視点です。
俺の人生においての最大のドッキリとも言える日の翌日、朝から編集長に色々と問い詰められたりして、適当に誤魔化すのが本当に大変だった。
あんな堂々と会社にやって来た奏海を恨みそうになったりもしたが、そんな慌ただしさの最中、俺はなんと名案を思い付いたんだ!
これは急がねばと、やって来た訳だが……
「でけぇ……」
桜野家の前……
まだ家に入ってすらいないのに、このデカさ。
流石に入るのも躊躇われる……
「何かご用でしょうか?」
「あぁ、奏海に用があってな。アポなし突撃訪問なんだが、いいか?」
「……失礼ですが、あなた様のお名前は?」
「秋﨑稔だ」
「あぁ、お通り下さい」
「え!? いいのか?」
「はい」
俺がうろうろと、桜野家前で不審者をやっていると、玄関と思われる門の内から来た男が声をかけてきた。
だがまさか、名前を言っただけで通してもらえるとは……
奏海が俺の来る可能性を考えて、あらかじめ俺の名を使用人達にも話していたんだろうが、同性同名の別人だったらどうするつもりなんだ。
全く、無用心だな……んなわけないか。
「稔様、ようこそお越し下さいました」
「神園さん……って、様は止めてくれ」
「そういう訳には参りません」
「そうか?」
少し歩いた先で出迎えてくれた神園さんに案内してもらい、桜野家内を歩く。
広く美しい庭に、洋風の屋敷……
間違いなく俺がいるのは場違いな場所だ。
開けてもらう扉をどんどんと抜けていくだけの簡単な動きのはずなんだが、こんな豪華な場所にいることに緊張しているのか、自分の足取りが重い。
ただ妹に会いに来ただけだっていうのに……
コンコンッ!
「お嬢様、稔様がおみえです」
「どうぞ」
「失礼致します」
案内された通りに、奏海の執務室とやらに入らせてもらった。
奏海は一番奥のデスクで書類をみている……いや、書いている? 見ながら書いてるのか……
「稔兄さん、どうされました?」
「いや、そのな……」
俺に視線を向ける事もなく、書類を見ながら冷たい印象を受けるような話し方のくせに、しっかりと兄さん呼び……
こいつは、ツッコミ待ちかなんかなのか?
「ちょっといいことを思い付いたんだ」
「なんです?」
「お前達スノーフレークの独占取材をさせて欲しいんだ」
「お断り致します」
「……って、少しは聞けよ! お前達にも利点はあるんだ!」
「なんでしょう?」
「あのゴシップ記事をあげたうちの社で、お前達の独占取材をしたら、お前達とうちの社は裏で繋がってたってなるだろ?」
「はい」
「そうなればあの特番で語られた変な証言は、ああいう奴等を誘きだそうとしていたお前等の罠にまんまとはまった奴だったって世間にも思ってもらえるはずだ!」
「そうですね」
「それは利点だろ?」
「そうかもしれません」
「なら取材を……」
「お断り致します」
「……なんでだよっ!」
全くこっちを見ようともしない。
この調子じゃ昨日車で仮眠したっきり寝てねぇんだろうな、どうせ。
「おい、奏海」
「はい」
「お前……」
「はい」
「寝たか?」
「はい?」
やっと顔をあげたか……
「なぁ、なんで取材がダメなんだよ? あと、ちゃんと寝ろ」
「スノーフレークの、というのが無理なんですよ」
「あ?」
「やはりスノーフレークの取材となれば、それは私1人で決めれる事ではありません。いくら私が社長だとはいえ、社長の独断で物事を決定する事はできませんからね。スノーフレークの皆の同意も必要となりますし、然るべく会議を開き、皆の意見を纏めてから結論を下す事になりますので、そんなに先では世間様もこの事に対して興味をなくしておられますよ」
「お、おぉ……」
「ですので、私個人の取材でしたら構いませんよ?」
「……だったら最初からそう言えっ! そして寝ろ!」
「寝てますよ、それなりに」
ったく、相変わらず変な奴だ。
ドーンッ!
「奏海ーっ!」
俺が奏海に呆れていると、急に男が部屋に入ってきた。
ん? こいつは……?
「蓮也、見て分からない? 今、来客中」
「あ? 関係ねぇよ、んな事。てかこいつ、あれじゃん。親父の舎弟」
「しゃ、舎弟!?」
この言葉使い……
あのレンだとは思えない……
「でさ、この間のあれなんだけどよー」
「うるさい。空音に言っといて」
「んだよ、ちょっとは聞けよ」
「静かになったらね。あと、稔さんからの独占取材受けといて。ちゃんとレンとしてね」
「はぁ? じゃこの間のー」
「神園さん」
「かしこまりました」
「あ、ちょっとー!」
神園さんに後ろから捕まえられたような形で、レンは強制退出させられていった。
なんと言うか……
「賑やかだな」
「まぁ……」
本当にこいつ等はなんなんだろうか?
でも今奏海はレンに取材を受けるようにと言っていたし、奏海とレンの独断取材は決行できそうだ。
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




