兄妹
稔さん視点です。
俺からの質問に一区切りがついたからか、
「どうですか? いい記事は書けそうですか?」
と、奏海は聞いてきた。
「こんなの記事にしねーよ。お前は記事にされたいのか?」
「あまりしてほしくはないですよ。でもそれが稔さんの役に立つのなら、記事にして頂いても構いませんよ」
奏海は元々、俺の事は信用してなかったんだ。
だから今これだけ俺に自分の素性を話したのも、俺が誰にも言わないと思ったからではなく、話されても構わないからという事だったんだろう。
してほしくはないと言いながら、構わないと思っているだなんて……
「俺は、家族の嫌がる事はしない」
「確かに千蔵さんも翠さんも、嫌がられるでしょうね。でも、これはなかなかのビッグニュースですよ? 鈴蘭村や秋崎家の事を書かずに桜野グループの事、主に桜野秀紀の事を書けば……」
「だから、家族の嫌がる事はしないって言ってんだろ! 俺は親だけじゃなくて、妹の嫌がる事もしたくねぇんだ!」
「……」
「……何か言えよ」
「……」
「お前にとって秋崎夫婦が親なら、お前は俺の妹って事だろうが!」
「……まぁ、稔さんがそう思って下さるならそうですね」
若干の変な沈黙はあったが、奏海は俺の妹である事を認めた。
その沈黙がなんだったのかが気にはなるが、俺を兄として認めたからには言わせてもらう。
「奏海、これはお前の兄としての意見だ」
「はい、何ですか?」
「今すぐに寝ろっ!」
「えっ……」
「朝からずっと寝てないだろ! なんなら朝も寝てないんだろ? 今すぐ、さっさと寝ろ!」
俺はここね来る時に寝ていたが、奏海は全く寝ていない。
そしてこいつのこの忙しさから考えれば、普段からあまり寝ていないであろう事も想像出来る。
いくら奏海が超人とはいえ、そんな不健康な生活を続けさせる訳にはいかない。
「私はまだ仕事がありますので」
「そんなもん、後にしろ」
「眠いのでしたら、稔さんは寝ていただいて構いませんよ」
「俺はお前に寝ろと言ってるんだ」
「ですから……」
「奏海。妹ってのは、兄に逆らわないものだ」
「それはどこでの常識ですか? 私は兄というのが妹に逆らえないものだと認識しているのですが?」
「一緒だろ?」
「はい?」
「兄は妹に逆らえないのもあるし、妹は兄に逆らわないのもある。この2つは両立出来る」
「……なるほど?」
逆らえないのと逆らわないのは違う。
そして今のに納得した奏海は、俺の意見で論破できる。
「俺は散々お前に従って、する予定のなかった里帰りをさせられたんだ。妹には逆らえなかったからな。そんな兄の意見に、お前は逆らわないよな?」
「……分かりましたよ。では少し、仮眠させてもらいますね」
「あぁ」
「おやすみなさい、稔兄さん」
「……ばか。早く寝ろ」
車内に置かれていたクッションを枕にし、目を閉じた奏海。
心なしか、若干口角も上がっているように見えて、穏やかな印象を受ける。
目の前にらあの桜野奏海が寝ているという異様な光景。
もちろん目を瞑ってるだけで、まだ起きているんだろうが、それだけでもずっと起きてるよりは休まるだろう。
さっきまでは騒がしかった車内が、急に静かになったように感じるな……
そうして静かに車が走り続けて5分程たった時、
「稔様、ありがとうございます」
と、運転手の神園さんが小声で話しかけてきた。
俺も寝ているかもしれない奏海に気遣い、一応小声で、
「何がですか?」
と返した。
「お嬢様を寝かせて下さった事ですよ。今、ご就寝されました」
「分かるんですか?」
「ええ、お嬢様の気配が変わりましたから。先程までは気を張っておられましたが、現在は落ち着いておられます」
「そうなんですか……」
気配で寝たかが分かるとか、凄すぎるだろ……
でもこの神園さんなら本当に何でもできるだろうからな、そこまで驚きはしない。
「わたくし共も、お嬢様には寝て下さいとよくお願いをするのですが、なかなか寝て下さらないのですよ。稔様のように、お嬢様に"寝ろ"等とは言えませんからね。本当にありがとうございます」
「俺もまさかあの桜野奏海に"寝ろ"なんて言う日が来るとは思ってませんでしたよ」
本当に、一体どうやったら予想できたっていうんだ。
自分とは全く無関係の芸能人と金持ちのスキャンダル撮ったら、いきなり自分に妹ができるなんて事を。
だがまぁ、これもなかなか悪くないと思えてるんだから、不思議だよな。
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




