奇跡の出会い
稔さん視点です。
「じゃあお前は、本当に桜野グループの奴等を恨んでねぇんだな」
「はい、全くもって。復讐を果たしたいなど、思った事もありません」
「ただの一度も?」
「そうですよ。彼等が私をあの山に捨てた事によって、私は千蔵さんと出会う事ができました。そこから翠さんや、今日の記者会見に行ってくれている葵や蓮也、あの村でたくさんの大切な人達の出会う事ができましたからね。恨む要素がないんですよ」
恨んでいない、それは本当に紛れもない事実なんだろう。
自分を捨てた事に対して復讐しようとも思わないで、ただただスノーフレークの為に利用出来そうだから、利用したまで……
理屈では分かるが、その行動にはどうも感情を感じない。
両親に捨てられた事も、その先で利用した事も、全部客観的過ぎる。
これだけ壮絶な事をしておいて、感情的になりもしないで行動するなんて事、本来できる訳がない。
それが桜野奏海の凄さでもあるんだろう。
……だから、捨てたのか?
この調子なら、幼少期から他の子供とは逸脱した存在であった事も大方予想は付くが……
「でも、捨てるだなんて……」
「恨んではいませんが、だからといって桜野ご夫妻のした行いを許したという訳ではありませんよ」
「は?」
「たとえ被害者の私が恨んでいなくとも、それは結果論に過ぎないんですから。子供を山に置き去りにしたという揺るがぬ事実は、到底許される事ではありませんから」
相変わらずの客観的な物言いは気になるが、こう言うという事は、おそらく桜野秀紀達には何らかのペナルティを課しているんだろう。
それがどんな事なのかは知らねぇし、聞こうとも思わねぇが、出来るだけ悪いものである事を祈る。
俺がざまぁと思えるような……
「事情がどうであれ、そんなまだ3歳だった子供を山に置き去りにするだなんて許せねぇ……」
「そういえば、稔さんのお子さんも今が丁度3歳でしたね」
「あぁ。だからかな? なんか余計にムカつくというか、話を聞くだけでもぶん殴りたくなる」
「それは犯罪なので止めて下さいね。それと一応言っておきますけど、稔さんの可愛い娘さんと違って、私は捨てられてもしょうがないような、気味の悪い子供でしたよ。ですから桜野ご夫妻が捨てた気持ちというのも、分からなくはないんですよね」
「お前な、そういう事を言うもんじゃねぇぞ」
「別に桜野ご夫妻を庇うつもりで言っているわけではありません。ただの事実です。親は子供を選べないんですから、変なのが生まれてきてしまったらどうする事も……」
「バカか! ふざけたことをぬかすな! 子供だって親を選べはしねぇんだよ! だからこそ親子ってのは奇跡の出会いなんだろーが! 出会った時から家族っていう繋がりをもって産まれてきてくれる、大切な存在なんだよ!」
自分を捨てた存在を庇うような発言をする奏海にイラついて、思わず怒鳴ってしまった。
でもそれを聞いた奏海は、パソコンから視線を離し、俺の方をしっかりと見て、
「そうですね」
と、言って、笑ってきた。
「千蔵さんと翠さんの元に稔さんが生まれた事だって、奇跡の出会いですよね」
「そ、そうだな……」
くそっ……
俺の言葉を悪用しやがって……
本当にとんでもねぇ奴だ。
だがこれで、俺の親がどうして奏海の育ての親となったのかは分かった。
そして、俺が出ていった後のあの村では、毎日が相当に事件だらけだったんだろうという事も予想がつく。
そう考えると、つまらねぇと思って出た村ではあったが、もう少し待てば面白かったんじゃないかとも思えて……
村を出た事に後悔はない。
俺は村を飛び出した事でアイツに会えた今の生活がある。
それに奏海は父さんが山菜採りに来ていたといっていたが、あの頃で父さんがそんな事をしているのは見たことがない。
つまり本当は、俺を探していたんだろう。
父さんが俺を探して山に入っていたから、奏海を見つけられた……
そう考えると、人生ってのは本当に色んな偶然が重なりあった事で起こる奇跡の連続なんだと思う。
この世に偶然なんてものはなく、全てが必然的に起こる事だというのも聞いた事はあるが、俺は偶然の重なり合いが奇跡となったと考える方が好きだ。
だからこそ、この奇跡の出会いの数々を改めて凄いと思った。
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




