出立
稔さん視点です。
「途中、ひやひやしたぞ。だが、何とかなったか」
「あいつら……」
「あら奏海、怒ってるの? いいじゃない、あれくらい」
「だってあんなの台本にないもの! 勝手なアドリブ入れといて、あんなボロ出しかけるだなんて」
「落ち着け、奏海。それで、いつ空音は挨拶に来るんだ?」
「来ないっ!」
記者会見が終わると、俺の両親と奏海は本当に家族のように盛り上がって話していた。
いまだに俺は、この状況が受け入れられない……
刀川葵が記者会見で言っていた事からして、奏海は刀川葵とレンの幼馴染み。
つまり刀川のババアの孫と久我の兄ちゃんの息子と一緒に育ったという事になる。
……それは、どこで?
どう考えてもこの家だ。
「葵ちゃんも蓮也君も悪気があった訳じゃないんだし」
「悪気しかないでしょ? 生放送でこんな事言って……」
「だが、あの仲の悪いあいつ等が、あそこまで息ピッタリにあれだけはなしたんだぞ? 褒めてやれよ」
「あぁ、そうか……」
「どうしたの?」
「ちょっと怒りで冷静に慣れてなかったけど、改めて考えたらあの2人にあんな事が出来る訳がないの。あの2人は変わらずの仲の悪さだから、打ち合わせなんてしないからね」
「でも、息ピッタリだったわよ?」
「だから、台本に書いてあったってことでしょ? 台本書いた紅葉が主犯ね」
よく分からんが、俺を完全に蚊帳の外にして、奏海はかなり怒っていた。
内容から察して、おそらくさっきの記者会見には台本とやらがあったんだ。
そして刀川葵もレンも、その台本通りに話していた。
当然奏海もその台本の内容は知っていたはずだが、その台本には奏海にも知らされていない内容もあったという事なんだろう。
まぁ多分、奏海に恋人がいる云々の件だろうな。
「紅葉ちゃんって、前に挨拶に来てくれた子だったわね?」
「そう、私に次ぐ常識人のはずだったんだけど」
「まずお前の常識がずれとる!」
「えー、それは育て方の問題じゃない?」
「俺達のせいにするでない!」
はいはい、決定的な発言をいただきましたー。
奏海を育てたのが俺の両親って事か。
何がどうしてそうなったのかは知らねぇが、まぁなんかもうどうでもいい……
「さてと、記者会見も見たし、2人の元気な顔も見られたから、そろそろ帰るね」
「あら、もう行ってしまうの? 夜ご飯は?」
「急に来たし、用意ないでしょ?」
「そんな事は気にしなくていい!」
「ありがとう、でもやっぱり今日は帰るよ。稔さんも、殆ど拉致ってきたような状態だし」
「そうか……」
さっきまでは完全に俺の存在なんて忘れてるみたいだったのに、父さんは急に近づいてきた。
そして、
「まぁ、勝手に出ていったような奴だ。勝手に帰って来ようが、今さらなにも思わんわ」
とだけ言って、そのまま奥へと行ってしまった。
「稔、あなたにとっては嫌な場所かもしれないけれど、いつでも帰ってきて頂戴ね。あなたの無事が分かって、本当に嬉しかったわ」
「母さん……」
もっと、たくさん怒られると思ってた。
それなのにこんな蚊帳の外で……
それに嫉妬してる俺がいて、でも母さんはこうして泣いて喜んでくれていて……
「安心して、翠さん。今度は稔さんだけじゃなくて、稔さんの奥さんと娘さんも拉致ってくるから」
「おいっ!」
一応俺と母さんの感動の再会だというのに、奏海はふざけたように茶化してきた。
だがその声が父さんにも聞こえていたようで、
バタバタバタバタッ!
「娘! 娘といったか! 稔! お前、結婚してたのか!?」
と、父さんは奥から走ってきて胸ぐらを掴んできた。
こういう乱暴なところ、相変わらずだな。
「お、おう……」
「奏海、それは出来れば早急に頼みたい……」
「分かった。今回はしっかり頼まれておくね。じゃあ時間もあまりないことですし、行きますよ、稔さん」
「は? え、もう?」
「早く帰りたいんですよね? 19時は過ぎてしまうと思いますが、急いで帰りますよ? それとも、まだまだご両親に甘えていたいですか?」
「はぁ?」
「ふふっ。奏海、あなたも楽しそうね」
「あまり無理ばかりはするなよ」
「うん、行ってきます」
「「行ってらっしゃい」」
すっかり変わったようで、やっぱりあまり変わっていない俺の両親……
そんな2人に見送られながら、俺はまた奏海の車に乗る事になった。
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




