ご近所さん
稔さん視点です。
すたすたと家の中に入って行った奏海は、当たり前のように居間に座り、テレビを見ていた。
「そろそろ始まるよ。あ、ほら出てきた」
「あら、葵ちゃんも蓮也君も、凛々しい顔をしてるわねぇ」
「これ、録画は出来とるんか?」
「うん。まぁ必要なんだったら、伊吹がデータを取ってるはずだから、それを送るよ?」
「なら送ってくれ」
15年ぶりに帰ってきた俺の事なんて、もう気にしてもないという様子で、父さんも母さんも奏海と一緒にテレビを見始めている。
俺の後ろから控えめに歩いてきた神園さんは、部屋の端でまるで執事の様に静かに佇んでいて……いや、まぁ、ガチで執事なんだから当たり前なのかもしれないけど。
「待ってる間とか、大丈夫だったのかしら? あの2人、喧嘩してたりとか……」
「周りで誰が聞いてるかなんて分からないんだから、下手に弱味を握られるような事は2人ともしないでしょ。多分、ずっと無言で過ごしてたと思うよ」
「そんなの……あんなに仲が悪いんだから、奏海が行ってあげた方が良かったんじゃないの?」
「お前が帰って来たかったというのは分かるが、いくらなんでも葵が可哀想だろう。実梨は無理だろうが、乃々香あたりに……いや、真に頼めば良かったんじゃないか?」
「真が行っても、スノーフレーク社員としか紹介出来ないし。葵なら秘書ってそこそこ知られてたりするから、私の代役としても適任なの」
「でもこれじゃあ……刀川さんも久我さんも心配されてると思うわよ?」
刀川さんに久我さん……
母さんが言った名字には、聞き覚えがあった……
それにさっきから母さん……蓮也君って……
「な、なぁ? 久我さんってまさか……」
「そうよ。稔もよく遊んでもらってたでしょ? 蓮也君の事も覚えてる?」
「あ、あぁ……俺が出てった時に、3歳くらいだったよな?」
「そうそう。懐かしいわね~あの蓮也君が、こんな爽やかイケメンになっちゃってぇ~」
あの大人気タレントのレンが、久我の兄ちゃんの息子?
久我の兄ちゃんは俺と10歳離れてて、かなりよく遊んでもらったんだ。
あまり素行がいいとは言えない俺と一緒になって……
でも結婚してガキが出来てからはあまり遊んでくれなくなって、あんなに暴れてた人だったのに、大人しいつまんねぇ奴になっちまって……
俺がこの村を出ていった原因の1つにも含まれる。
あの時のガキの名前が、蓮也だった……
その蓮也が、レンって事になる……
それにさっき母さんが言った刀川……
それは川向こうのババアの名字だったはずだ。
確かスノーフレークがあの赤い羊を捕まえた事件の時に活躍していたスノーフレーク社員の名が、刀川葵だったはず。
となると、何度も名前が登場してる葵というのは、あの刀川のババアの孫か何かか?
パシャパシャパシャパシャ
「皆さん、この度はお騒がせ致しまして、大変申し訳ございませんでした」
「本日はスノーフレーク社長、桜野奏海に代わりまして、私が代理を務めさせていただきます」
パシャパシャパシャパシャ
テレビで記者会見が始まった。
「なぜ代理なのですかー!」
「桜野奏海さん本人はどうされたんですか!」
「謝罪会見で代理だなんて、失礼じゃないですか!」
「静粛にお願い致します!」
「失礼、会見の前に誤解があるようなので、訂正させていただきますね。我々スノーフレークは、謝罪会見に来た訳ではありません。記者会見に来ています。発表もそのようにしていたはずですが、なぜ謝罪会見だと?」
「なっ……」
「謝罪すべきは、このレンがファンの皆さんに誤解を与えた事のみであり、我々としましては、謝罪する事はありません」
……こっわっ。
刀川葵、怖すぎだろ。
俺、あの記者会見行かなくて良かったぁ……
あの記者の奴には同情する。
「あらあらあらあら、やっぱり葵ちゃん、相当機嫌が悪いんじゃないの?」
「そうみたいだね」
「あの2人を一緒にするからだ」
「さっきから言ってるが、あの2人は仲が悪いのか?」
「そうですよ。本当に幼い頃から喧嘩ばかりで……喧嘩するほど仲がいいとはいいますけど、あの2人は本当に仲が悪いです」
「葵ちゃんはしっかりした子だからね、蓮也君みたいにちょっと素行の荒い子に対しては、かなり厳しく怒るのよ~」
「本当に蓮也は、父親の悪影響を受けすぎてるからな」
父親の悪影響って……久我の兄ちゃんの事だよな?
ってことは、レンはかなり素行が悪い?
あんな、爽やかイケメンとか呼ばれる奴なのに……?
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




