厚待遇
稔さん視点です。
少し車の揺れが激しくなったのを感じて目が覚めた。
どれくらい寝ていたのかは分からないが、俺は変わらず高級車の車中だ。
これが夢だったらよかったのにな……
だが、こんな状況下で誰が寝られるかと思っていたのに、意外と寝られたな。
やっぱり座席がふかふかだからだろうか?
それとも置いてある飲み物には、睡眠薬的な物が入れられていたんだろうか?
いや、もしそうなら、俺が寝ている間に何かされているはずだ。
俺がこうして五体満足でいるというのは、何もされていないという事……だよな?
一応手荷物等を確認してから、奏海の方を見る。
変わらずパソコンやら携帯やらをいじりながら、何語かよく分からん言語で喋っている。
明らかに声をかけていい雰囲気ではないな……
「なぁ、何処に向かってるんだ?」
「奏海様に指示された場所ですよ」
「随分と山道を走っているみたいだな」
「そうですね。車酔いの方は問題ありませんか?」
「あぁ。そんな心配をしてもらえるくらいなら、家に帰してもらえた方が嬉しいんだがな」
「用事がお済みになられましたら、すぐにお送り致しますよ」
「その用事ってなんなんだ?」
「それは、行けばお分かりになるかと。ほほっ」
奏海には声をかけられそうにないので、運転手の方に声をかけてみた。
物凄く優しそうなおじさんだし、俺を心配もしてくれるいい人のようにも思えるが、奏海の指示にしか従わないらしいからな。
ん? というか、この人……
「あんた、神園藤雅さんだよな?」
「おや、私の事をご存知でしたか」
「これでも一応記者だからな。有名人の顔は覚えるようにしてる」
「ほほほっ、それであのスキャンダルも撮影出来たのですね。素晴らしい手腕です」
「お、おう……」
運転手はあの神園藤雅さんだった。
外国での執事大会は殿堂入り扱いをされたという、桜野家随一の執事。
それでも確か、神園さんは桜野家の事を任されていて、奏海に付きっきりという事はないという話だったはずだ。
それなのにこうして運転手をして……?
奏海と神園さんが同時に同じ事で動くなんて、そんなの相当重要な案件でもない限りあり得ないんじゃ……?
ご主人様である奏海を陥れるようなスキャンダルを俺が撮ったというのに、それも褒めてくれているみたいだし……
俺がそんな事を考えていると、車が止まった。
そして、
「お手洗いへどうぞ。まだこの先は長いですから」
と、奏海に言われた。
どうも道の駅的なところみたいだ。
俺と神園さんは降りてトイレへと向かう。
奏海は降りる事なく変わらずパソコンと向き合っていた。
トイレを済ませたところで、車には帰らず、どうにかして帰る方法を模索してみたがダメだった。
それに、ずっと厚待遇で、何かされたという事もないのに、逃げるというのもおかしく思えるからな。
大人しく車に戻ると、奏海は降りた時と変わらず、パソコンをやっていた。
「おい、お前はトイレに行かないのか?」
「……私、乙女ですから」
「は?」
「乙女はトイレなんて行かないものですよ」
「何言ってんだ?」
「稔さんは、アイドルの皆さんもトイレに行くと?」
「当たり前だろ!」
「あら、ちゃんと現実に向き合えている方だったんですね」
「バカにしてるのか?」
「少々」
車で奏海とふざけた会話を繰り広げていると、神園さんがまた車を発信させた。
奏海は本当にトイレに行かないみたいだ。
寝てもいないし、トイレもいかない。
なんなら何も飲んだり食べたりもしないで、ずっと仕事だとかいうのをやっている。
本当にこいつはなんなんだろうか?
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




