応援
創太視点です。
「頼む、創太! 一緒に妹の練習試合の応援に来てくれ!」
昼休み、急に駿介は僕に頭を下げて頼んできた。
「え、あ……うん。僕は別に構わないけど、妹さんと面識ないよ?」
「それはいいんだよ。創太は俺と一緒にいてくれれば……」
「そうなの? でも、なんでそんな必死に……」
「実はさ、俺……好きな人がいて、その人が妹の友人なんだよ」
「あ、もしかしてその人が応援にくるからって事?」
駿介は少し顔を赤らめながら、取れてしまうのではないかと心配になるような勢いで首を縦に振り、肯定してきた。
僕も好きな人はいるし、気持ちが分からない訳じゃない。
駿介にはいつもお世話になってるし、僕で役に立てるのならと、駿介の妹さんの試合の応援に行くことにした。
試合の当日、先に駿介と待ち合わせをして、2人で試合会場となる学校の体育館へと向かった。
そこで、
「あら、あなた……」
「葵さん?」
と、実梨さんの幼馴染みである、葵さんに会った。
「って、え? まて、まてまてまて……」
「駿介?」
「待ってくれ、創太。お前、葵さんと知り合いなのか!?」
「うん、僕がいつも手伝いに行ってるななさんの知り合いの人だから」
「駿介さん? ご無沙汰しております。お2人は友人だったんですね」
「あ、はい。お久し振りですね、葵さん。創太とは最近仲良くなったばかりなんですよ、ははっ」
駿介はかなり照れて話している。
つまり、葵さんが駿介の言っていた好きな人なんだろう。
「こんにちは、葵さん」
「あ、明日香の……ご無沙汰しております」
「お話しのお邪魔をしてしまいましたか?」
「いえ、問題ありませんよ」
体育館の入り口付近で話していると、男の人が葵さんに挨拶をしてきた。
物腰の柔らかい、とても優しそうな男性だ。
多分今日のこの試合に出る人のお父さんだろう。
「肩の怪我の方は?」
「もう完治していますよ。ご心配ありがとうございます」
「えっ! 葵さん、怪我をされたんですか?」
「えぇ、先日に少しだけ……問題ありませんが」
「そうですか? でも何かあれば俺に言って下さいね! 渚も世話になってますし、お礼もしたいので!」
「ありがとうございます、駿介さん」
1人で好きな人と会うのを恥ずかしがっていた割には、駿介は結構葵さんに話かけている。
別に僕はそんな必要なかったんじゃないだろうか?
駿介の邪魔をしないようにと少し距離をとりながら、試合前の練習の様子を見ていると、
「君は誰かのお兄さんかな?」
と、さっきの男性に話し掛けられた。
「あ、いえ。僕はあの駿介の付き添いです」
「先程の話からして、駿介さんは渚さんのお兄さんですか?」
「あー、そうだと思います。妹さんの名前を聞いた事がなかったので分かりませんが」
「そうなのですね……」
「あの、どうかされました?」
「あぁ、失礼。渚さんにもお世話になったものですから」
お世話になった?
娘がいつもお世話になっているとかじゃなくて?
まるでこの人本人が世話になったような言い方だ。
ピーッ!
「あ、そろそろ試合が始まるみたいですね」
「おぉ! 明日香ー! がんばれよー」
「あの手を振ってるのが明日香さんですか?」
「そうです。私の自慢の娘ですよ!」
「渚さんっていうのは……」
「渚さんは、あそこで皆に指示をしている方です」
「へぇー」
言われて見ると、駿介に少し似てる気がする。
駿介は葵さんといい感じに喋れているだろうかと少し心配になって2人の方へと振り向くと、葵さんがこっちを見ていた事に気付いた。
もしかして、ずっと見られていたんだろうか?
なんだろう? 僕が実梨さんの迷惑になっていないかを見られるとか……
……いや、でもなんか神妙な感じだな?
「葵さんの視線が気になるのですか?」
「えっ、えっと……はは、ちょっと」
「おそらく彼女は、私を心配してくれているのでしょう。とても優しい方ですから」
「うぇっ!?」
「ど、どうされました?」
「あ、すみません……僕は葵さんをとても怖い人だと思っていたので……優しいんですね」
葵さんの事は、たまに実梨さんに会いにくる怖い人というイメージしかなかった。
あの実梨さんの住んでる部屋に来る人達のなかでも、一番怖い感じだったし……
でもそうか、優しい人なのか……
「葵ーっ!」
「真衣、遅かったわね。ギリギリよ」
「いつもの葵と一緒だね! あ、渚のお兄さん、お久し振りです」
「ども……」
駿介が少し残念そうにしながら、僕の方へと戻ってきた。
「折角あれがいなくて、葵さんの独り占めが出来てたのに……」
「あれって……あの葵さんと仲良さそうに話してるこ?」
「そそ、あれは俺が葵を好きなのを知ってて邪魔してくる」
「そうなの?」
「というわけで創太! 後であいつの相手を頼む! 話題はなんでもいいから!」
「もしかして、僕ってそのために呼ばれた?」
「まぁな……」
「……はぁ、分かったよ。でも以外だったな」
「何が?」
「葵さんって、あんなに楽しそうに笑う人だったんだね」
「あぁ、たまにしか笑わないけどな。本当に俺の天使だ……」
これは、駿介は葵さんの笑顔に惚れてしまったって事なのかな?
僕も自分の恋で手一杯だけど、駿介のこの恋心も実る日が来るといいな……
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




