向き合い
葵視点です。
相応に盛り上がりながら、5人で色んな話をした。
最近の社会情勢、スノーフレークがどういう存在なのか、明日香の近況……
気がつくと外は完全に暗くなってしまっていた。
「後はご家族でよく話し合って下さい。また何か困った事があれば、スノーフレークに相談いただいても構いません」
「ありがとうございました!」
「あの、お代は……」
「必要ありません」
「私が籠っていた原因がご自身のせいだと思っておられるのなら、それは違いますよ? 私がこうなったのは、自分の弱さ故なのですから」
「いえ、そうではなくて、そもそもこういったご依頼からは、お代をいただかない事になってるんです」
もう明日香も父親と笑い合っているので、お暇しようとすると、金銭の話を切り出された。
依頼で来ているとはいえ、これはまだ相談された程度に過ぎない。
しっかり契約を交わした訳でもないのにお金をもらうなんて事はしない。
なんなら窓を壊してしまってるんだから、こっちが請求される側だ。
「スノーフレークが相談無料っていうのは、もっと大々的にアピールした方がいいんじゃない?」
「そうね。奏海に話しておくわ」
「わー、出た出た奏海さん。元気にしてる?」
「えぇ、いつも元気よ」
「元気ってさー、あれはねー?」
「うんうん」
奏海が九条麻里奈の演技を止めてから、協力してくれた人達に挨拶をして回った。
その際に今までとのギャップに全員が引いていた。
私達からしたら、いつもの奏海が帰ってきたって感じだったけど。
「明日香は本当に、いい学校に入ったな。素敵な先輩がたくさんじゃないか」
「うん!」
「また何かありましたら、スノーフレークにご相談下さい。必ず力になってみせますので」
「はい、ありがとうございました」
挨拶をして、明日香の家を後にする。
呼んでいた日下部の車に乗って、渚と真衣を家に送り終わった。
「葵様、どうされたのですか?」
「……別に」
「浮かない顔をされているように見えたのですが?」
「浮かない、か……そうかもしれないわね」
「何か悩み事が?」
「えぇ、ちょっとね……」
明日香の父親に前へ進めと話した。
そして現に彼は、これからしっかりと進んでいけるだろう。
じゃあ、私はどうなんだろう?
人には家族とちゃんと向き合えと話しておいて、私は向き合っていない。
あの手紙からもずっと逃げ続けている。
忙しい事を言い訳にして……
「本日の葵様のご予定の方でしたら、空音様が無事完了したとの事で、現在帰国中ですよ」
「そっちの心配はしていないわ」
「そうでしたか。では、ご自宅でよろしかったですか?」
「いいえ、桜野家に向かってくれる? 奏海もそろそろ帰ってるはずだから」
「かしこまりました」
この件に関して、奏海には私の好きなようにしていいと言われてる。
どの選択をしたとしても、奏海は私の味方をすると……
いつもなら心強いと思えるその言葉も、今回で言えば逆効果だった。
でも、だからといって逃げ続けているわけには行かない。
人に向き合えと言ったからには、私もちゃんと向き合おう。
日下部に送ってもらって着いた桜野家。
入ってすぐに挨拶をしてくれる使用人さん達にそれなりの返事を返して、奏海の執務室へ。
コンコンッ!
「奏海、私」
「どうぞ」
カチャ……
奏海は奥のデスクで書類を片付けていた。
「今日は急用だったみたいね、片付いたの?」
「一応ね」
「お疲れ様」
労いの優しさを感じるけど、見た目としては冷たい。
奏海に慣れている人じゃなければ、恐ろしい印象しか与えないだろう。
「奏海。私、決めたわ」
「呼ぶのね」
「やっぱり、分かってたのね」
「確信してた訳じゃないけど、多分そうするだろうとは思ってた。そこに今の葵の表情を加えれば、結論は容易く出る」
「あら、私はそんなに分かりやすい顔をしていたのかしら?」
「あなたに初めて会った時も、似たような顔をしていたから。動かない人形が人に変わった瞬間、とも表現できるけど?」
「そう……」
私が人形だったのなら、人に変えてくれたのは奏海だ。
私はその事に感謝しているし、今の自分を後悔もしていない。
たとえ弦が認めてくれていなくても……
「もし、波乱になったら……」
「間違いなく、なると思うけど?」
「うん、だから先に謝っておくわ」
「それくらい構わないから。葵の思ったようにやりなさい」
「ありがとう、奏海」
奏海にも報告したし、これでもう逃げられない。
まぁ逃げるつもりはないのだけれど。
「あ、そういえば、スノーフレークが相談無料だっていうのは、もっと大々的にアピールした方がいいと思うわ」
「そう? ポスターでもつくる?」
「そうね、紅葉にも話しておくわね」
「よろしく」
そんな話をしながら執務室からは出た。
早く帰って、手紙の返事を書かないと。
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




