落ち度
葵視点です。
「あ、あ……おとーさん? お父さんっ!」
「明日香……」
私が強引に部屋から連れ出した明日香の父。
明日香ともちゃんと会ったのは久しぶりのようで、明日香が抱きついている。
感動の再会を果たしてくれた事は嬉しい限りだけど、まだ何の問題も解決していない。
何に怯えていたのかが、まだ教えてもらえていないんだから。
とはいえ、そう簡単には教えてくれないだろうし、まだまだ話し合いが必要だろうと考えていると、
「き、君達は……」
と、渚と真衣を見て、怯えだした。
私が怯えられる事はよくあるけど、この2人を見て怯えるとは。
なかなか珍しい事もあるものだ。
しかも、渚だけならともかくとして真衣にまで怯えるだなんて……
「あの?」
「うわぁぁああ!」
「お父さんっ!」
「すまない、すまない、すまない、すまないっ! 私の、私のせいで……」
膝をつき、項垂れてしまった。
かなり震えているし、よほど恐ろしいんだろう。
これはこの人に聞くよりも、2人に聞いた方が早そうだ。
「知り合い?」
「ううん?」
「はじめましてだと思うけど……?」
2人共覚えがない……
まぁ、仮に知り合いだったとして、今の様子では分からないか。
何しろ今の彼は、髪も髭もだらしない状態なんだから。
「明日香、普段の彼の写真はない?」
「あ、持って来ます!」
バタバタバタッ!
明日香が写真を取りに1階へと降りていったので、待っている間に項垂れてしまった彼の肩に手をそえる。
「落ち着いて、呼吸をしっかりして下さい」
「あ、あぁ……」
「今は呼吸の事以外、考えなくていいですから」
「すまない、すまない……」
「謝罪も1回忘れましょう」
顔がどんどん青ざめていっている。
私の声は届いているのか否か……
バタバタッ!
「あのっ! 写真、写真です」
「これがこの人……」
「え、う~ん?」
「……あっ! もしかして!」
「真衣?」
「"麻里奈"について調べてた人なんじゃ……」
「ああぁぁぁぁああ!」
麻里奈? 麻里奈といえば、九条麻里奈。
この反応からしても、間違いなさそうだ。
となると、赤い羊問題か……
「申し訳ございませんでした」
「…………は、え?」
「あなたが怯えていたのは、赤い羊の事件が原因なのですよね? 本当に、大変申し訳ございませんでした」
「な、何故、あなたが……?」
「九条麻里奈」
「あっ……」
「九条麻里奈なんて存在はいませんよ」
「……」
赤い羊関連で、九条麻里奈の名で怯えたとなれば、答えは1つしかない。
この人は赤い羊に何か弱みを握られてしまい、九条麻里奈を調べるようにとでも頼まれた人なんだ。
私を見てどうともなかったのなら、九条麻里奈と刀川葵の関係性は知らされていなかっただろうし、ただ、ターゲットとして九条麻里奈の存在を知ったんだろう。
そして、自分のせいで九条麻里奈が死んでしまうと恐れていた。
あれだけ謝って……
さっきの猫が既に死んでいるといっていたのもそうだ。
既に九条麻里奈が死んでいると思い、その事実を受け入れたくなかったんだ。
つまりこれは全部、私達スノーフレークの落ち度という事になる。
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




