情報遮断
葵視点です。
渚の後輩の明日香の悩みを聞くために、共に昼食を食べようと屋上へきた。
でも私にはどうも威圧感があるようで、明日香はなかなか話そうとしない。
あまり無駄な時間は過ごしたくないのだけど……
「明日香ちゃん、葵はただせっかちなだけだから。落ち着いて話してみて。なんなら、葵を見なければいいんだよ。この町並みを眺めながら、なんとなく呟けばいいよ~」
「……ありがとうございます」
「葵のお弁当美味しそう!」
「食べる?」
「食べる、食べる! 卵焼き!」
「だし巻き卵よ」
「わーい」
渚と真衣が明るくしてくれたお蔭で場が和んだ。
本当にこの2人にはいつも助けてもらってる。
「お気遣い、本当にありがとうございます……あの、ご相談したかったのは、私の父の事なんです……」
「お父さんがどうしたの?」
「その、私のお父さん……」
やっと要件を言う気になった明日香は、
「私のお父さん、引きこもりになっちゃったんです!」
と、涙をながしながら言った……
「お父さんが、引きこもり?」
「はい……」
引きこもり案件か。
となると、担当は私じゃなくて紅葉や伊吹が適任だ。
でもここで私がそれは自分の担当ではないからと、別の人を紹介するというのは、明日香からの信用を失う事に繋がりかねない。
明日香は私を頼って来てくれているのだから、現状を見もせずに他人に任せるなんて事は出来ない。
「引きこもりになったのはいつから?」
「完全に引きこもっちゃったのは、1ヶ月前くらいからです……でも様子がおかしくなったのはもっと前で……」
「様子がおかしいというのは?」
「お父さん、本当にとても優しい人なんです。普段から怒ったりとか全然しなくて……それなのに、些細な事で凄く怒鳴ったりするようになって」
「些細な事の詳細は?」
「えっと、テレビをつけたり、お母さんと話してたりするだけで、"喧しいっ! 静かにしろっ!"って……」
「そりゃあ急激な変化だね」
「最高の上司ですって言ってくれてた部下の人達にも、同じような態度みたいで、皆も心配してくれてます」
「ってことは、前は相当尊敬されてる上司だったんだよね?」
「はい……」
「他に異変は?」
「あ、あとは……そのっ! 毎日読んでた新聞を、一切読まなくなっちゃって、新聞が視界に入っただけでも怒ってました……」
テレビと新聞を拒絶……
話していると喧しいと怒るのもおそらく、会話が自分に聞こえてしまうのを避けるため……
つまり、果てしなく情報を遮断しているんだ。
「流石に急にそんな風になった訳ではないでしょ? もっと以前に、何かなかった?」
「それが、全く思いつかなくて……私もお母さんにも思い当たる事がありませんし、会社の皆さんにもないみたいで……本当に急に怒りっぽくなっちゃったんです……」
「携帯やパソコンは?」
「はい?」
「ネットは見てたの?」
「……いえ、携帯は電話にしか使っていませんでした。パソコンは分かりませんけど、仕事にしか使っていなかったと思うので、ネットとかは見ていないと思います」
そこまでして、何かを知りたくなかったという事か。
その何かが分からない限り、引きこもってしまったのを出てこさせる事は出来ない。
でも、誰にも心あたりがないというのはな……本人に聞くしかない。
「ちょっと失礼するわね……」
3人に断りを入れてから、電話をかける。
「紅葉、今日の代わって欲しいんだけど」
「りょー、何時終わり?」
「未定」
「なら空音にお願いしといてー」
「分かったわ」
電話をきってから、
「空音っ!」
と、呼ぶと、
「おー」
と、すぐに声がした。
まぁ、空音達はいつも屋上でお昼を食べているだから、いる事は分かっていたけど。
「なに? 俺も必要な感じ?」
「私の今日の、代わって」
「あ、そっちな」
「よろしく」
「おー」
空音は軽く返事をして、また中道君達の方へと戻って行った。
「これで問題ないわ。明日香、これからあなたの家に行くから」
「は、はい!?」
「こらまた、急だね」
「私達も同行するよ!」
明日香の様子からしても、事はかなりの緊急性を要している。
その上現段階では解決策がない。
まずは明日香のお父さんに会わない事には、どうする事も出来ないな。
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




